86.シルヴィアの兄姉妹
「ヴィアはロゼフィアーレの公女様だったのに、独立して伯爵家当主になって、王都にアトリエも経営してるんですよね!すごい発明品を次々と作り出しているとノエル様から聞きました。更に魔術の才能もあり、戦闘能力もセンスも高いとか。本当に本当に尊敬します。」
ナディアは二人きりになった途端ものすごい勢いで話しかけてきた。今日は早めに移動を中断したため、眠るにはまだ早い。
「あー。それはなんか違う気がしますが……あってる部分もあるから否定するのが難しいですね。」
「ノエル様は嘘をついたりしませんよ!」
ナディアは頬を膨らませて抗議する。
「もちろん嘘じゃないですが、評価されすぎといいますか。何か、いつの間にか勝手にそんな事になっていたといいいますか。」
「そうなんですか?」
ナディアは首を傾げる。
「そうですね。取り敢えず否定しやすいところからいきますと、伯爵家当主は私の知らないところで勝手に祭り上げられていただけですし。」
「そんな事ありますか?」
半眼で見つめるナディアにシルヴィアは苦笑いを浮かべる。
「それがあるんですよね。戦闘能力は父にそうしないと独立できないと脅されていたから死ぬ気で努力しただけですし。まあ、何というか日々のタスクをこなしていたら今の私が出来上がったという感じですかね。」
「……なるほど。」
ナディアは真剣な顔で頷く。
「周りの支えと、ヴィア自身の絶え間ぬ努力の積み重ねが、今の素晴らしい実力と地位を作り上げたという事ですね。」
「……さっきよりは近いか。」
薄い菫色の瞳をキラキラとさせて見つめるナディアに、シルヴィアはもうこれ以上の真実を伝えるのを諦めた。
結局のところメーティス学園に入りたくなくて頑張っただけなのだが、なぜ入学したくなかったのかをうまく説明する自信がない。それに入学しなかった事による恩恵は、この1ヶ月ほどですでに帳消しとなっている。シルヴィアは余計な混乱を生むのを避けた。
「さあ、明日からも移動と討伐日々が待っています。そろそろ寝る準備をして早く休みましょう。」
「了解です!」
順番に入浴を済ませて、シルヴィアとナディアは寝袋を並べて眠る事にした。
「野営って意外と快適なんですね。」
「これを野営と認識すると、後々大変な事になるかもしれませんね。私たちと一緒の野営は別物だと考えた方がいいかもしれないです。」
シルヴィアは眉を下げて笑う。
「肝に銘じます。」
ナディアは横になったまま頷くとそのまま瞼を閉じた。すぐに寝息が聞こえてきたためシルヴィアはホッとする。慣れないメンバーで野営など不安で眠れないのでは、と少し心配していたのだ。ナディアの寝顔を見ながらシルヴィアは微笑む。
「まるで妹ができたみたいだわ。」
シルヴィアは兄と姉に囲まれた1番下のため、年下の弟妹に憧れていたのだ。
ちなみに長兄ヘリオスは領地で領地経営の補佐を、次兄エンリルは王宮で父仕事の補佐をしている。長姉フレイヤは侯爵家の嫡男に嫁ぎ、次姉アイリスは隣国の王族に嫁いだ。何とも優秀で堅実な兄姉を持ち、感謝している。そのおかげで自身が好き放題に過ごさせてもらっている事をシルヴィアは知っている。
「さて、明日も私は私の仕事を確実にこなしていきましょう。それで、一刻も早くアーノルドのところに戻らないと。」
急いで帰りたい場所が、いつの間にかアトリエではなくアーノルドの元に変わっている事にシルヴィア自身はまだ気がついていない。
「おやすみ、ナディア。」
シルヴィアも瞳を閉じてすぐに眠りについた。




