82.シルヴィアの説得
「もう……いいんだ。元はといえば我々が魔物たちの棲家を奪うような事を計画したのが間違いだった。」
「オルディアはその報いを受けているのよ。」
「我々はこのまま滅びるべきなんだ。」
二人は苦しげに目を伏せる。
「ノエルはロゼフィアーレに戻り、安全な所で暮らしなさ……」
「そんなのは嫌だ!僕がオルディアを取り戻す!」
ノエルが今まで聞いたことのないほど大きな声で反論する。
「僭越ながら……私もノエルと同じ意見です。オルディアの魔物は上位種に変化しています。おそらく知能や魔力のある人間を食す事で進化したと思われます。そしてオルディアを滅ぼし、餌場を失った魔物たちはいずれロゼフィアーレを含む周辺国へ溢れ出る事になるでしょう。お二人のお気持ちは察しますが、我々はそれを看過することはできません。」
「それに、オルディアに住む関係ない国民たちが可哀想だ。」
「騎士たちもそうだ。彼らに罪はない。」
「それは……。」
「諦めるのはまだ早いですよ。責任を取りたいのであれば、全てが解決した後に皇帝の座をノエルに譲ってください。」
シルヴィアはニコリと微笑む。皇帝は腕を組み頭を悩ませ、皇后はそんな皇帝にそっと寄り添う。
「我々はオルディア各地を周り、上位種に進化した魔物や我々に襲いかかる魔物を中心に討伐して魔物の数を減らしていく予定です。そういう個体が人間の味を覚えている可能性が高いですからね。ご了承いただけますか?」
シルヴィアはコテリと首を傾げる。
「俺たち、まあまあ強いんだぜ。」
「任せてもらえないだろうか?」
ランドルフとオズワルドも言葉を付け足す。
「今なら、僕たちの力で何とかできそうなんだ!」
ノエルは皇帝にしがみつく。
「お願いっ!」
「……………分かった。」
皇帝はようやく首を縦に動かす。
「許可する……などと偉そうなことは言えないな。よろしく頼む。」
「ありがとうございます!」
シルヴィアは小さくガッツポーズを取る。しかしシルヴィアはその手をすぐに顎下に移動させ、下を向いた。
「……ありがとう。」
ノエルはホッとした様子で、嬉しそうに微笑む。
「良かったな、ノエル。」
「うん。みんなもありがとう。」
ランドルフは駆け寄ってきたノエルの肩を叩く。
「俺たち四人でサクッとオルディア中の魔物をやっつけてこようぜ。」
「ああ、四人なら何とかなるだろう。」
「そうだね。四人で力を合わせて……」
そこでシルヴィアが口を開いた。
「いえ……ノエルはここに残ってください。壊れた城門は今は【土壁】で塞いでいますが、また同じ事が起こらない保証はありません。王都の守備の要が必要です。」
その言葉に三人は目を見開く。シルヴィアは人員配置を考えていたのだ。
「でも……。」
「守備力で言えば、ノエルが一番適任です。この城のこともよく知っているでしょうし、街の人々や騎士の方々の信頼も得やすいでしょう。」
ノエルの反論を待たずに、シルヴィアが言い切る。
「……分かった。でも、絶対に無理はしないで。」
ノエルは険しい顔でシルヴィアを見つめる。ノエルがいなくなれば当面三人でオルディアを回ることになるのだ。
「約束します。」
シルヴィアは笑顔で頷く。
「マジか……。」
「三人だったな。」
「ヴィアに振り回されるのは結局、俺たちだけというわけか。」
「ノエルが抜ければ更にヴィアの破天荒さに拍車がかかる気が……。」
「やばいなそれ……。」
その後ろではランドルフとオズワルドが遠い目をして肩を寄せ合う。
「ちょっとそこ!聞こえてますよ!」
シルヴィアはビシッと指をさして指摘する。
「聞こえるように言っている。」
「ちょっとは加減しろよな!」
「す、すみません……。」
シルヴィアは思わぬカウンターを喰らった。
「はは、こんなに賑やかなのはいつぶりだろうか。」
「皆さん仲がいいのね。ふふっ。」
国王陛下と王妃陛下が初めて笑った。国内が悲惨な状態になってしまい、正常な判断が取れなくなっていたのだろうとシルヴィアは思う。せっかく守っていた王都まで滅ぶことを望むなんて正気の沙汰ではなかった。
「さあ今日はもう遅い。空いている部屋を用意させるからそこで休んでいくといい。」
魔物討伐の許可は無事に得られたものの、日が落ちてあたりは暗くなっていたため、シルヴィアたちは翌朝王都を出発することになった。
「ちょっと待って。無事だったなら何で全く連絡ないの?」
ノエルの話を中断させてエミリオが質問する。
「それが……通信機器をリュックに入れたままハイオーガ戦でバトルアックスを振り回していたから……壊れたみたいで。」
「は?」
エミリオは絶句する。ノエルは苦笑いだ。ロゼフィアーレでは、討伐の間は宿に置きっぱなしにしていたので、壊れる可能性を考えていなかったらしい。
「意外とうっかり者だよね。」
「うっかりじゃ済まないよ!あんな貴重な……まあ作ったのもヴィアなんだけど……はあ。」
エミリオは疲れたように大きなため息を吐く。ちなみに通信機器以外は騎士団から拝借した野営の道具のため頑丈であり、何一つ壊れていなかったそうだ。




