81.オルディアの聖女
「誰も居ませんね。」
「ああ、人の気配が全くしない。」
城門に流れてくるオーガがいなくなった頃、ランドルフとオズワルドも城壁の周りを一周して戻ってきた。四人揃って城門をくぐり、王都の中を歩いている。
「この門以外はどこも壊されていなかった。全員オーガに喰われたって事はないと思うが……。」
「……たぶん王城の中に避難させたんだと思う。城門よりもさらに頑丈に作られているから。」
ノエルがメイン通りを真っ直ぐ進んだ先にあるオルディアの王城を指差す。王都に中心に鎮座している王城は見るからに頑丈そうな作りをしている。ロゼフィアーレの王宮とは違い、戦う城であり守る城である。
「ノエル様!」
王城の中から声が聞こえた。かなり近づいても物音ひとつ聞こえなかったため『全滅』の文字が一瞬頭に浮かんだが、こちらの様子を窺っていただけのようだ。
「ノエル様がお戻りだ!城門を開けろ!」
「急げ!」
掛け声とともに王城の中が慌ただしくなる。ギイイイイッとこれまた頑丈そうな扉が開かれて、中からオルディアの騎士たちが姿を見せる。
「ノエル様、ご無事で何よりです。」
「すぐに陛下の元へ。」
「ああ、ありがとう。」
騎士たちがノエルの姿を見て喜び合う姿にシルヴィアは胸がギュッとなる。二人の皇子を亡くして、国はボロボロになり、さぞ不安だったろう。
「お連れの方々もご一緒に。」
ノエルとともにシルヴィアたちも謁見室へ通される。ノエルの留学先、ロゼフィアーレの貴族だときっと分かっているのだろう。そこで待つ皇帝陛下と皇后陛下はノエルの姿を見た瞬間に泣き崩れてしまった。
「ああ、ノエル。もう二度と会えないと覚悟していた。」
「無事でいてくれて本当に良かったわ。」
側に駆け寄ったノエルをふたりが抱きしめ、しばらくそのまま泣き続けた。
「初めまして。私はオルディアの皇帝であり、ノエルの父だ。遠路はるばる来てもらったというのに見苦しいところを……申し訳ない。」
「ノエルの母です。オルディアまでノエルを連れてきてくれて本当にありがとうございます。」
ノエルの父と母は深く頭を下げた。
「いえ、こちらこそ。ノエル殿下はロゼフィアーレの恩人です。とてもお世話になりました。」
シルヴィアはにこりと微笑み、そして同じように深く頭を下げた。ランドルフとオズワルドも同調する。そして、ダークホールや魔人の事など、ロゼフィアーレで起こった事を順番に説明した。
「ロゼフィアーレにまでそんな被害が……。」
「……。」
皇帝と皇后は悲壮な顔で言葉を失う。
「わたくしの力不足でロゼフィアーレの皆様にまでご迷惑をおかけして申し訳ございません。」
謁見室に同席していた女の子が突然声を出して、頭を下げた。
「ナディアのせいじゃないよ。」
ノエルが優しく声をかけると、その女の子は今にも泣き出しそうな顔を上げる。
「聖女ナディア……。」
シルヴィアは驚愕の表情で呟く。ナディアを見て思い出した……ゲームの中で語られたノエルのその後を。
『メーティス学園を卒業したノエルはオルディアに帰国し、幼馴染の聖女ナディアと共に崩壊寸前であったオルディアを立て直した。その後、聖女と結婚したノエルはオルディアの皇帝となった。』
ゲームの中で語られたのはそれだけ。その二文におさまっていた事実に眩暈がする。たった二文が現実になるとこんなにも惨い事になるのだ。ノエルの立ち絵すら出てこないルートでも何故かエンデングで流れるこの後日談。前世では違和感しかなかったが、続編への布石だったのかもしれない。ノエルルートではないシルヴィアがここにいる時点でおそらく話はめちゃくちゃだが、後日談通りにオルディアを立て直さなければならない。
「力を合わせて魔物たちからオルディアを取り戻しましょう。」
「次は俺たちがオルディアを助ける番だからな。」
「ああ。ダークホールが無くなった今ならできるはずだ。」
誰もがそれを望んでいると思った。しかし、そうではなかった。皇帝と皇后は二人で顔を見合わせた後、静かに首を横に振ったのだ。




