79.エミリオの全力疾走
エミリオはとにかく全力で馬を走らせた。ノルド山までの道沿いにある王国騎士団の屯所に立ち寄る度、馬ごと【体力回復】をかけてもらい夜通し走った。【聖火】で闇を照らしながら。結果、荷馬車で4日かかった道のりを1日半で走り切った。さすがに疲れたので数時間だけコッリーナの宿で休み、再び出発するところである。
「この先は屯所をあてにできないから、体力回復薬10本と魔力回復薬5本くらい持っていってもいいかな?」
麓の屯所でヴィアのアトリエの魔法薬を分けてもらい、腰につけたポシェットに入れる。
「国境付近までヴィアの魔法薬が行き渡っているとは驚きだな。」
「これのおかげでとても助かっています。」
屯所の騎士が答える。
「ああ、私も助かる。貴重な魔法薬を分けてもらってありがとう。」
「いえ、とんでもございません。」
「では私が留守の間、ロゼフィアーレをよろしく頼む。」
「はい。どうかお気をつけて。」
「ありがとう。」
エミリオはニコリと微笑むと屯所を後にした。
「さて、ここからは徒歩で登るか。」
そう言いながら馬を降りようとしたが、ふと胸にあるペンダントを見る。
「これをこの子につけたらどうなるんだろうか。」
エミリオは出来心で馬の首にペンダントをかける。
「ヒヒーーーーン。」
「うわっ。」
効果はばつぐんだった。馬は木々を薙ぎ倒し、斜面をもろともせず駆け上がる。その姿はまさに神馬。あっという間に山を超えて、さらに突き進む。
「……オルディアに入ったな。」
山の中では馬にしがみつくので精一杯であったが、平地におりてきたため体勢を立て直して手綱を握り直す。
「ヴィアからの連絡では、こちらに向かったようだ。」
エミリオとシルヴィアは連日、通信機器で自分たちの居場所を伝え合っていた。下りのノルド山や平地に入ってからも魔物がほとんどいなかった事、馬で移動できた事でかなり距離を稼いだらしく、その日のうちにシルヴィアたちが2日目に滞在したであろう土壁の箱に到着した。
「今夜はここで休もう。」
エミリオは土壁の中に馬を入れ、【聖火】で焚き火をし、持ってきた寝袋で眠った。
翌朝も早朝から移動を開始して、その日の日付が変わる前には王都に到着した。シルヴィアの【磁石】での移動はかなり高速なのだが、目視できる一番遠い物体にくっつく移動のため、太陽が昇っている間しか動けなかった。魔人の時のように【測量】を行い、見つけた目標点に対して【磁石】で移動させることも可能だが、かなりの集中力が必要なため自分も移動しながらは難しい。エミリオは日の出前から日付が変わる頃まで(馬が)魔法薬を飲みながら移動し続けたため、シルヴィアから遅れることたった3日でここまで辿り着いた。
「最後に連絡があったのは私がオルディアに入る直前……全員無事だといいんだけど。」
毎日届いていた生存連絡がここ数日は途絶えている。エミリオは馬をおりて恐る恐る城門に近づく。何か良くない事が起こっているとしたら城門の中で、なのだ。
「エミリオ!」
大きな声で名前をよばれたのでエミリオはびくりと身体を強張らせる。
【聖火】で辺りを照らしているため明るいが、今は夜中だ。しかし、その声はとても聞き覚えのある声。こんな特徴のある声を聞き間違える訳はない。
「ノエル!無事だったか!みんなは?」
城門の上から顔を出すノエルの姿を見つけて、その真下まで走り寄る。
「それが……。取り敢えず中へ。隠し扉を開けるよ。」
そう言うとノエルの姿が消える。しばらくすると、ゴゴゴゴ……と石壁の一部が動いて入り口が現れた。
「入って。」
いつの間にか地上に降りてきたノエルに手招きされて城壁の中に入る。馬も手綱を引いて何とか通ることができた。
「エミリオも無事でよかった。アーノルドは?」
エミリオは目を瞑って首を横に振る。
「良くも悪くもなっていない。アーノルドの状態が分からない今、私がヴィアたちに合流して一刻も早くオルディアの混乱を終息させようという結論に至った。」
「そうなんだね。ありがとう。」
「いや、申し訳ないがこちらの都合もあって慌てている。オルディアの力になりたいのはもちろんなんだが。」
「それで十分だよ。ヴィアたちをお借りしてこちらこそ申し訳ない。」
ノエルは眉を下げる。
「ヴィアたちはどこに?」
「訳あって今は僕だけ別行動をとってるんだ。」
二人は王城に向かって歩きながら、ノエルはこの数日間にあった事を順に説明し始めた。




