76.便利なシルヴィア
「何も、ありませんね。」
「ああ、瓦礫しかない。」
「アンティカとは比べものにならんな。」
「……ひどすぎる。」
ノルド山を下りた一行は、ノエルの記憶を頼りに、一番近くにあるはずの町にやって来た。やって来たはずなのだが、そこには本当に何もなかった。瓦礫すら風化したのか殆ど残っていない。
「それなりの大きさの町があったはず。」
「何がどうなったらこうなるんだよ。」
「ここまで来ると災害級ですね。」
「ロゼフィオーレよりも大きな魔物がいるのかもしれないな。」
「雨風が凌げる建物があると良かったんですが……【土魔術 土壁】」
シルヴィアは六回【土壁】を唱えて、家一軒ほどの大きな箱を作る。
「この中にテントを張りましょう。底にも土壁を敷いたので、寒さもマシだと思います。」
「で、どうやって入るんだよ。」
「私の魔力でできているので、私だったら簡単に切れるんですよ。」
そう言いながらファルシオンを【圧縮解除】し、土壁箱に差し込んで玄関ほどの出入り口を切り抜いた。
「やっぱりお前はバケモノだよ。」
イレーネがいないためオズワルドの失言を嗜めるものはいない。
「オズワルドのソレは褒め言葉として捉えさせてもらいますね。」
シルヴィアは眉を下げて笑った。
野営の準備を次々と圧縮解除し、土壁の箱の中に設置していく。通気口もたくさん開けたため、土壁の中での調理も可能である。四つの小さめのテントは個人用に。一番大きいテントの中に浴槽を設置して、ノエルに雪を積めてもらい、ランドルフに火を炊いてもらってお風呂も沸かした。
「野営とは……。」
「もうここまできたら簡易的な家だね。」
「浴槽がある時点で普通の平民の家でもないな。」
シルヴィアがせっせと準備をする姿を、三人が驚愕の表情で見ている。
「まあまあ、せっかくなんで使えるものは使いましょう。」
食料もノエルの魔法で凍らせてから【圧縮】して持ってきているため、かなりの量があるし痛む心配もない。野菜と肉の山盛り入ったスープと、焼いたパンを夕食に用意した。
「公爵家で料理の勉強もしておいて本当に良かったです。こんな所で役に立つとは思いませんでした。」
シルヴィアはへらりと笑っているが、他の三人はもはやドン引きだ。
「……公爵家ってやっぱすごいんだな。」
「いや、普通の公爵家ではそんな事教えないだろう。」
「ヴィアを普通と一緒にしてはいけない。」
「そうだった。つい自分の尺度で考えちまう。」
「本当に……規格外もいいところだ。」
シルヴィアが凄すぎて呆れるという謎の現象が起こっている。
「おーい、コソコソと失礼な事言ってないで早く食べましょう。冷めちゃいますよ。」
出来上がった料理を土壁の外の焚き火の前に運ぶ。料理をしている間にランドルフが起こしてくれていたようだ。四人で温かい夕食を囲む。
「何はともあれ、無事にオルディアに入れて良かったな。」
「一緒に来てくれて本当にありがとう。」
「まだ始まったばかりだ。お礼は全て解決してからにしてくれ。」
「そうですね。ここまで見た感じだとオルディアはロゼフィアーレに比べてかなり酷い状態だと思います。」
夕食後は誰からという事もなく自然にミーティングが始まった。
「明日はどうする?」
「とりあえず王都に向かおうと思う。さすがに持ち堪えてくれているんじゃないかな。」
「そこで国内の状況をある程度把握できるかもしれないな。」
「ここからどれくらいかかりますか?」
「馬で丸5日はかかる……と思う。」
「では、【重力減少】と【磁石】で2日ほどあれば到着できるかと思います。危ないので保護系の魔術も同時にかけますね。」
「到着した時に命はあるんだろうな。」
「たぶん大丈夫です!」
「みんながお前みたいにバケモノじゃないからな!」
ランドルフまでシルヴィアを化け物扱いし始めた。
「失礼ですね、本当。ここにいるメンバーはもれなく片足はバケモノに突っ込んでますよ。」
多少揉めながらも明日の予定が決まったため、それぞれのテントに分かれて休む事にした。




