74.二度目の出発
その日のうちにエミリオとイレーネ、アーノルドは荷馬車に乗り、王都に向かって出発した。普通の馬車だとアーノルドを寝かせたまま運べないため、出来るだけ揺れの少ない荷馬車を選んでもらった。従者が同乗するつもりであったらしいが、何かあった時にすぐに対応したいからとイレーネが譲らず彼女の同乗が決まった。もちろんエミリオも護衛のために同乗している。図らずも旅の間ずっと一緒に移動していたメンバーが全て離脱してしまい、シルヴィアは少しだけセンチメンタルな気分になってしまった。
「さて、我々も行きましょうか。」
「ああ。」
「……何かやっぱり、変な感じがするのは俺だけか?」
「いえ、私もです。でも、そんな事言ってる場合じゃないんですよ。」
メンバーが急に三人も欠けたため、会話のバランスが悪い。更にリーダー的存在であるエミリオが抜けた事でまとめる人もいない。
「やっぱり、僕がひとりで……」
「行くよ!みんなで行くけども!」
「とにかく、早く乗れ。」
オズワルドが馬車に全員を押し込む。懐かしい風景だ。しかし、今度はシルヴィアも同じ馬車に入れてもらえている。
「ふふふ。」
「お、何かご機嫌だなヴィア。」
「そうなんですよ。今回はのっけからいいことありまして。」
「ふん。」
「良かったね、ヴィア。」
オズワルドはシルヴィアのご機嫌の理由が分かっているらしい。そして、今回はランドルフもノエルも会話出来ている。ずっと一緒だった三人がいなくなって正直少しだけ心細かったが、何とかやっていけそうだとシルヴィアは思う。
「さて、今日も登りますか。」
残った四人は今日もノルド山を登るのだ。馬車を降りて目の前の山を見上げる。
「昨日よりは魔物も少ないだろう。」
「ランドルフ……【炎玉】お願いします。」
そしてシルヴィアは今日も震えている。
「あ、忘れてた。【炎魔術 炎玉】」
「馬車で迂回も出来なくないけど……。」
物凄く遠回りをすれば馬車でオルディアまで行けないこともないらしいが、時間が勿体無い。それに、馬車も従者たちもロゼフィオーレ王国のものだ。エミリオもイレーネもいないのに、このままオルディアに持っていくのは良くないという結論に至っている。シルヴィアたちの帰りを待つことなく王都に戻るように指示しておいた。
「日が暮れるまでにとりあえず山は越えましょう。」
「道案内はノエルに任せるぞ。」
「うん。たぶん大丈夫。」
野営の道具や食料などはシルヴィアが【圧縮】してリュックに入れているため、オルディアがどのような状態でも当面の生活には困らないだろう。この前のように魔力が切れて【圧縮解除】が使えなくなれば別だが、リヴィオに魔力の使用制限を命じたし、アーノルドとお揃いの魔除けの指輪が左手の薬指にはまっているのできっと大丈夫なはずだ。この指輪がこんなに心強いと思う日が来るなんて思ってもみなかった。
「皆さん行きますよ!よーい……どん!」
「何だ、その掛け声は。」
「え、知らないんですか?運動会とかで……」
「そういう意味ではない。山を登り始めるのに適した言葉ではないだろう。」
「ああ、そういう意味ですか。ここでは違う言葉なのかと……おっと。」
「……ここでは?」
「どういう意味だ?」
「いえ何でもないです!間違えました!」
護衛対象がいなくなり魔物もほとんどおらず、今日はただの山登り状態。しかも魔道具のアクセサリーを装着しているため、全力疾走でも辛くない。シルヴィアは油断しすぎて余計な事を話してしまいそうになった。ぐんぐんと山を登り、山頂を越えて下り坂となる。
「オルディアだ……。」
ノエルの言葉を聞いて、一行は足を止める。
薄い雲に視界を遮られているが、魔物の気配を感じる。やはり、こちら側の方が魔物が多いようだ。ロゼフィオーレ側では横一列に並んで走っていた四人であるが、改めて陣形を組み直す事にした。




