73.六人の決断
翌朝、何事もなかったようにアーノルドが目覚めて『おはよう、ヴィア。』と挨拶してくれる、どこかでそう期待していた。しかし、そんな都合のいい展開にはならなかった。彼は今日も眠ったままだ。これまで(おそらく)ゲームのシステムに振り回されてきたというのに、こんな時だけこの世界は現実なんだと突きつけられる。
「アーノルド、早く起きてください。」
シルヴィアは朝起きてすぐにアーノルドの部屋にやってきた。
「早く起きないと、私もう行っちゃいますよ。」
返事をしないアーノルドの頬を撫でる。
『私は……ヴィアの事を愛している。ずっと……ずっと一緒にいたい。……どちらかこの世を去るその時まで。』
「ずっと一緒にいるんじゃなかったんですか?どっちかが死んじゃうまでずっと。」
ヴィアはアーノルドの言葉を思い出し、空色の美しい瞳に涙が浮かぶ。
「……っ。このまま目覚めないつもりですか!一緒に居られなくなるの早過ぎなんですけどっ!」
そう言った瞬間、堪えきれなくなった涙がシルヴィアの目から溢れ出した。
「アーノルドが大変な時に申し訳ないのだけど、僕はこのまま山を越えてオルディアに向かおうと思う。今なら、魔物たちから国を取り戻せるかもしれない。」
朝食の席でノエルが口を開いた。アーノルド以外の全員が揃っている。
「各地のダークホールも消えたと報告が入っているよ。今が好機だね。」
エミリオはノエルの言葉に頷く。
「アーノルドは王都に返した方がいいだろう。」
「ああ。私とイレーネで行かせてほしい。この旅の全ての責任は我々にある。誠心誠意謝罪してくる。彼が目覚める方法もすでに王宮に連絡を取り、探してもらっている。」
「皆さん、ロゼフィアーレ王国を守るため、命をかけて戦って頂きありがとうございました。わたくしも聖女として、アーノルドにできる事を探したいと思います。」
「そうだな、イレーネはここで離脱してアーノルドを助ける方法を探してくれ。」
イレーネとオズワルドは顔を見合わせて微笑む。イレーネの目には涙が浮かんでいる。
「絶対に無事に帰ってきてくださいね。」
「ああ、任せろ。」
オズワルドはイレーネの頭を撫でた。
「私もアーノルドを王都に送り次第追いかける。ヴィアの通信機器と私の通信機器を後で繋げておいて欲しい。」
「分かりました。でも、エミリオも私の通信機器持ってたんですね……。」
「旅の途中で騎士団から受け取ったんだよ。本当、便利だね。」
今となってはそれを騎士団と王宮に配置しておいてもらって本当に良かったと思う。ビアンカの判断と、配置のスピード感は素晴らしかった。
「あの、僕だけ話が見えないんだけど……。」
「お前だけ行かせるわけないだろ。」
ノエルの隣に座るランドルフが、彼の頭をガシリと掴んだ。
「俺たちは仲間だ。一緒に行くぜ。」
「え、置いて行こうとしていたんですか?」
シルヴィアはにこりと微笑む。
「雪国の魔物にお前の魔術だけでは相性が悪いだろう。接近戦にも向いてない。」
「接近戦はオズワルドも苦手でしょう。」
イレーネから鋭いツッコミが入る。
「一瞬で片付けましょう!」
シルヴィアは顔の横で握り拳を作って頷く。
「ヴィアがそう言うと、私が追いつく前に全部終わってる気がするな。」
エミリオは苦笑いを浮かべる。ノエルはランドルフに頭を抑えられて下を向いたままだが、テーブルにポツポツとシミが出来ていくのが見える。
「……ありがとう。」
ノエルから発せられた小さな声は明らかに震えていた。しかしその声は確実に五人の耳に届く。ノエル以外の五人は笑顔で頷き、それを受け止めた。
かくしてエミリオ、イレーネ、アーノルドは王都に、シルヴィア、ノエル、オズワルド、ランドルフはオルディアに向かう事が決まった。各々が準備を整える。
「さて、オルディアに魔物退治と行きますか!」
ダークホール浄化という未知の依頼よりも圧倒的に分かりやすいミッションだ。シルヴィアは今まで持っていなかったリュックを背負い、勢いよく部屋を出て行った。
お読みいただきありがとうございます!
ここで『ロゼフィアーレ浄化編』完結とさせていただきます。
ちょっとだけお休みいただきます。
『オルディア編』再開までしばしお待ちください。
では。




