72.ノエルの真実
オルディア帝国の第三皇子として生まれたノエルは、発語の遅い赤子であった。3歳になる頃にようやく言葉が出るようになったが、その後も口数が増えることはなかった。コミュニケーション能力の低い彼は皇帝には相応しくないと判断され、早々に皇位継承の盤上から下ろされた。
しかしノエルは不幸ではなかった。父も母もノエルには特別に愛情を注いでくれたし、2人の兄もノエルには優しくしてくれた。兄同士は決して仲良くはなかったのに。
6歳ごろになるとノエルは自分に魔術の才能がある事に気がつく。家庭教師から教えられる魔術をいとも簡単に再現し、次から次へと習得していく。更に日が経つに連れて、その威力は家庭教師の魔術を凌ぐほどとなった。その事を両親も兄たちも喜んでくれたが、ノエルはその反応にふと違和感を感じた。彼らはノエルの事をとても幼い子どものように扱うのだ。
そしてそれは10歳を超えても変わることは無かった。愛情を注がれていると思っていた。可愛がられていると思っていた。しかし本当は可哀想な子どもだと思われていただけなのだ。ノエルは無口なだけで、何も考えていないわけではない。ノエルは喋らないだけで、話せないわけではない。ましてや知能が遅れているわけでもない。しかし彼らは全て後者だと思っているようであった。
ノエルは途端に、自身が産まれてからずっと暮らしているオルディアの皇城を窮屈に感じるようになった。両親や兄たちと過ごしていると息苦しく感じるようになった。彼らといると、自分が本当に可哀想な子どものように錯覚してしまうからだ。
14歳になったノエルはロゼフィアーレ王国への留学を願い出た。幼い頃に父の外交に同行して滞在した事がある。しかし、その頃になってもノエルのことをまだ幼い子ども扱いをしていた両親は大反対だった。上手くコミュニケーションを取れないのに、やっていけるわけがない。1人で他国になど行かせられないと。諦めきれないノエルは1年間説得を続け、最終的に根負けした両親は留学を認めてくれた。
「こんなにもしっかりと成長していたのに、いつまでも子ども扱いをしてすまなかった。」
「ロゼフィアーレ王国は魔術研究が盛んな国だから、きっと貴方のためになるわ。」
そう言って、謝罪と応援をもらった。15歳になったノエルはメーティス学園に留学するため、ロゼフィアーレへと出発した。
ロゼフィアーレでは、ノエルの事をかわいそうな子ども扱いする人も、幼い子ども扱いをする人もいなかった。魔術が得意なノエルをしっかりと認めてくれたし、敬意を持って接してくれた。本来受けるべき扱いをようやく受けられるようになった。皇子という身分でありながら、それが他国であるというのが少し悲しい。
入学から2年が経ち、メーティス学園で更に魔術を磨いたノエルは学年トップでの卒業を目前としていた。卒業後は国に戻り、軍部で帝国を支える力になろうと進路を決めていた。しかしそんなノエルの元へ衝撃のニュースが入ってくる。
「オルディアの第二皇子が、ノルド山の開発調査中に事故で亡くなったそうだ。」
「オルディア帝国中で魔物が凶暴化し、街を破壊しているらしい。」
「第一皇子が魔物の討伐中に大怪我を負い、感染症でお亡くなりになった。」
「オルディアは壊滅状態だ。王都を残して他は全て魔物に占領された。」
短期間の間にオルディア史上最悪の情勢がどんどん更新されていった。すぐに国に帰ろうとしたが。友人たちに引き止められ、両親からも帰ってくるなと手紙が届いた。『ノエルだけでも生き残ってほしい。貴方はオルディア帝国の唯一の光だ。』そう綴られていた。
卒業後の行き場をなくしたノエルは絶望の淵を彷徨っていた。そんな時だった、エミリオから浄化の旅のメンバーに加わってほしいと誘われたのは。オルディアが大変なことになっているのに、そんな事をしている場合なのか正直少し迷った。しかしロゼフィアーレはすでにノエルにとって第二の故郷だ。ロゼフィアーレまで失うことがないようにと思い、すぐに了承の返事をした。
その選択をした当時の自分を心から褒めてあげたい。浄化の旅に参加した事でヴィアに出会うことができた。彼女の魔術をみて、自分もまだまだ成長できるのだと気付かせてくれた。成長のヒントもランドルフやオズワルドを通じて示してくれた。更に、オルディア帝国の破滅の原因を突き止め、排除してくれた。彼女には本当に与えられてばかりだと思う。自分の力がこの旅で少しでも役に立っていたと信じたい。
そして、その与えられた力で、オルディアを立て直すのが今の自分の使命だ。ダークホールは消えているだろうが、魔物に占領されているという状況は変わっていないだろう。正直、自分一人でどこまで出来るか分からないが、諦めたらヴィアに叱られる。最後まで絶対にやり遂げる。僕はもう可哀想な第三皇子ではないのだから。




