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【第二部完結】ヒロインは早々にシナリオから離脱したい  作者: 朔島 涼
八章.ダークホールとは、ボス撃破

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71.元凶を絶ったその先に

「……とりあえず、先にアーノルドを診ます。」


そう言ってアーノルドに向かって歩きながら、シルヴィアは魔人に対して【土魔術 重力最小】と【土魔術 土壁】をかけた。無詠唱で。この国の人たちは、必ず詠唱して魔術を発動しているが、詠唱しなくても魔術は発動できる。頭の中できちんと発動のイメージが出来ていれば問題はないのだ。多分やってみた事がないのだろう。その後、アーノルドに【超治癒】をかけて振り返るともう魔人はいない。何故ならば、空高く浮き上がっているからだ。膝と両手を地面についたシルヴィアは何をしていたのか。魔人が目を覚ましても凶暴だった場合、彼を抑える力のある魔術師が近くにいる必要がある。なので、シルヴィアと同レベルの強さを持つ人物を探していた。


「見つけた……。」


隣の大陸にある国に、二人の強い魔術師を見つけた。その国のどこかに魔人入りの土の箱を置かせてもらう事にした。少し悩んだが、街中は普通にまずい。ノルド山と同じように国の北に位置する高い山の頂上に決めた。山の頂上を目指して【土魔術 磁石】で引っ張って移動させる。まあ要するに、シルヴィアは魔人を逃したのだ。彼はロゼフィアーレとオルディアでは罪を犯しすぎた。死刑は免れないだろう。しかし魔人族の歴史を少し聞いただけでも、彼の現状に至るまでに起こった事を慮っても、存在を消してしまう選択はシルヴィアにはできなかった。誰も知らない土地でやり直してもらいたいと思ったのだ。イレーネの【浄化】により負の感情もおそらく少しは落ち着いているはずだ。「貴方の未来に一筋でも光がありますように……。」無事に設置が終わったため、シルヴィアは顔を上げてゆっくりと立ち上がる。


「寒いので一刻も早く帰りましょう!」

「まだ寒かったのね、ヴィア。」

「【炎魔術 炎玉】。どうぞ。」

「ありがとうございます。」

「アーノルドはどうやって運ぶ?」


シルヴィアはおもむろに立ち上がると、バトルアックスで木を切り倒す。ドシーンと倒れた木に手を加えて、あっという間に木の板を作ると、その上に【土魔術 重力軽減】したアーノルドを乗せる。


「「「おお。」」」


その手際の良さに拍手が起こる。


「【土魔術 磁石】」


アーノルドを板に固定するちょうどいい紐がなかったため、磁石でくっつけた。


「これで運びやすくなりました。」

「急いで山を降りよう。」


シルヴィアが入ると背の高さが合わないため、男性4人でアーノルドを運んでもらい、シルヴィアとイレーネが先頭を歩く。登りにかなりの数の魔物を倒していた事もあり、下りはさらにスムーズだった。あっという間にコッリーナの街に戻り、宿のベッドでアーノルドを休ませた。




「アーノルドは大丈夫なのか?」

「すぐに目覚めると思っていた。」


アーノルド以外のメンバーが談話室に集まり、彼の様子を心配している。もう苦しんでいる様子はないが、下山中も宿に帰ってきてからも目覚める事なく眠り続けている。


「回復はしているんだよね?」

「今できる事は全力でやりました。」

「今できる事……。」

「わたくしもアーノルドの中にある闇の魔力は全て払いました。ですが……。」

「苦しんでいる間、チアノーゼの状態……つまり全身の細胞に酸素が行き渡っていなかったと思います。決して短い時間ではなかったので、その間に死んでしまった細胞があるかもしれません。」


シルヴィアは苦しげに目を伏せる。


「細胞が死ぬ?」

「はい。それが手や足の可能性もありますし、脳や心臓の可能性もあります。その場所や大きさによっては臓器ごと死んでしまっているかもしれません。最悪の場合はこのまま目覚めない可能性も……。」

「そんな……。」

「……。」


皆が言葉を失う。


「……それを治す事は出来ないのか?」

「そう、ですね。死んだ人を生き返らせないように、死んだ臓器を生き返らせる事は現時点では難しいです。ただアーノルド自身は生きているので……彼の回復力を信じる他はないです。」

「……そうか。」


今度こそ談話室は無音となり。各々部屋に戻ってその日は休む事にした。

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