68.ノルド山には炎玉が必須
ノルド山はとにかく寒かった。麓の街など比べ物にならない程に。従者の方々見つけてくれた、街で一番分厚い外套を羽織っているがそれでも寒い。魔術の属性のため、体温の高いランドルフにくっついて歩く。
「冗談抜きで俺の首が飛びそうだからもう少し離れて歩いてくれ。」
ランドルフがガタガタと震えながらシルヴィアを引き剥がす。
「だって……寒くて死んじゃいますよ。」
シルヴィアも負けじとランドルフに引っ付く。
「コレやるから、本当マジでヤバいから!【炎玉】」
そう言って火の塊を出してくれた。それはプカプカとシルヴィアの前に浮かんでいて、めちゃくちゃ暖かい。そして、シルヴィアが魔力を込めると自在に動かせた。
「いい判断だね、ランドルフ。」
それまで無言の圧をかけ続けていたアーノルドがふわりと微笑む。ランドルフに引っ付いているのは許せないが、寒がるシルヴィアが可哀想で引き剥がせなかったのだろう。
「何コレ、すごい!早く出してくださいよ!」
「あのなあ、みんながヴィアほどの魔力量を持ってると思うなよ。それ維持するにも魔力必要だからな?」
「ああ、そっか。」
シルヴィアは納得する。
「でも今日から私、魔力量万全ですから何回でも回復できますよ!」
「お前と話してると頭が混乱する。」
「ヴィアは規格外だからね。」
「やはりバケモ……」
「こら、オズワルド!でも体調が戻って良かったわ。ずっと眠そうだったものね。」
「うん、良かった。」
「ふふ……眠ってるヴィアも可愛かったけどね。」
イレーネとノエル以外、みんな好き放題言っている。
しかし【炎玉】で寒さを軽減したシルヴィアはご機嫌だ。帰ったら、『無限カイロ』的な魔道具を開発しよう。鉄と活性炭があれば作れそうだ。酸化した鉄を還元する魔術式さえ思いつけばいけるはず。……多分。無理なら別の方法を考えよう。小豆とか……ないか。
【炎玉】を手に入れたシルヴィアと首が飛ぶ危険がなくなったランドルを含む一行はスピードを上げてぐんぐんと山を登って行く。氷狼や氷蛇、イエティなども群れで現れるが、全て一瞬で薙ぎ払う。騎士団がレンタルしているヴィアのアトリエの魔道具を人数分借りたので、驚異的なスピードで登っている。一般の騎士のステータス10倍よりも7人のステータス10倍の方が上昇値が大きいのだ。そして物の又貸し又借りは良くないが、オーナーの元に戻ってきただけなので、まあいいだろう。この先の7個分のレンタル料は騎士団に返金しようと思う。
あっという間に八合目あたりまで登り、一行はそこで足を止める。決して疲れたわけではない。その山の頂上にとんでもないものが見えたのだ。
「ダークホールか?」
「にしてはデカすぎる。」
「中に何かいる……。」
「人、でしょうか?」
全員が目を細めてダークホールの巨大版を見つめる。
「いや、人の気配はしませんね。あれからは魔物と同じ魔力を感じます。」
「しかし、人型の魔物など……」
「……魔人族。」
「「「魔人族?」」」
エミリオの言葉に、ランドルフとオズワルド、アーノルドが反応した。
「そんなものが存在するのか?」
「人型の魔物など聞いた事もない。」
「確かに、初めて耳にするね。でも、王族の方々は特に驚いていないようだよ。」
アーノルドの指摘にエミリオは小さく頷く。
「魔人族は何千年も前に滅びた種族だ。いや、正しくは人間族か滅ぼした種族と言った方が正しいかもしれない。」
「歴史から消されたのよ。彼らの全ての記録が。けれど、王家に伝わる禁書に魔人族のことが残されているわ。」
人間族は魔人族の力を恐れ、数的有利を生かして彼らを攻め滅ぼしたそうだ。魔人族は強靭な肉体持ち寿命も長いため、繁殖能力が低かったらしく個体数が少なかったという。その時の将軍たちが後の大陸各国の王となり、魔人族が暮らしていた地域も含めて勝手に分割してしまったそうだ。
「オルディア皇城の書庫にも同じく禁書の保管庫に同じような記録が残っている。幼い頃に教えられた。」
「魔人族が作りだす『闇の感情による黒い球』の記述もあったと思う。魔人も黒い球も実物を見た事はなかったからダークホールと同一のモノという確信はなかったけど……。」
「どうやら、それで間違いないようだね。」
「魔人と魔人が作りだす黒い球……。」
王族もしくは皇族たちはその歴史に後ろめたさを感じながらも、忘れ去られている状況を都合がいいからとその記録を暗黙の了解で各国が禁書としているのかもしれない。目の前の魔人族かもしれない個体を前にそれぞれ複雑な思いを抱きながら、そこからはゆっくりと歩を進めた。




