65.麓の街コッリーナ
ノルド山への移動は馬車で2日かかった。昨夜は中間の街で宿をとり、もう1日移動して麓の街コッリーナに到着した。
「さ、寒い。」
「王都からだいぶ北に移動したからな。」
オズワルドだ。ノルド山周辺は彼の実家の領地となっている。シルヴィアはブルブルと震えている。
「山の麓と言っても、標高も900mほどある。」
「なるほど。」
「取り敢えず、宿の中に入ろう。ヴィアが凍えてしまう。」
「そうだね。」
シルヴィアは寒いのが苦手である。
宿の中に入り、談話室にあった暖炉の前に座り身体を温めさせてもらう。
「大丈夫、ヴィア?」
「はい、ありがとうございます。だいぶ温まりました。」
「明日はノルド山を登る事になるが大丈夫だろうか?」
「今、従者の方々が追加の外套を探しに行ってくれているようなので、多分大丈夫かと。」
元々の予定でも寒い地域の【浄化】に回る予定はあったため、人数分の外套は用意されていた。しかしシルヴィアが予想以上に寒がりだったため、こちらに到着してから更に分厚い外套を探しに行ってくれている。従者の方々に余計な仕事を追加してしまい本当に申し訳ない。しかし寒いのは……寒いのも、前世の頃から本当に苦手なのだ。
昨夜もミーティングを行い明日ノルド山に登る事はもちろん全員が分かっているため、今日は各々が好きなように過ごしている。この旅始まって以来の休暇日ともいえる。しかし寒すぎてシルヴィアは外に出る気力もない。オズワルドとイレーネは星を見に出かけたらしいが、シルヴィアは信じられないという表情でその話を聞いていた。しかしここはオズワルドの領地である事を思い出し、なるほどと納得する。オズワルドのことがずっと好きなイレーネは何度も領地まで押しかけていたらしく、彼女もこの寒さに慣れているらしい。
「眠い……。」
暖炉の前に置かれたソファーに座ってゆったりしていると、だんだんと眠気が襲ってくる。
馬車の中でもずっと眠っていたのに、本当に子どものようだと自分で自分が可笑しくなる。最近はところ構わず眠ってしまうのだ。多分魔力の使いすぎなのだと思う。いくら一晩寝れば回復するからといって無茶はいけないなと反省する。そんな事を考えながらもシルヴィアの瞼はどんどんと下がってきて、ついに眠りに落ちてしまった。
「あれ?ヴィアはまた眠ってしまったね。」
談話室に残りアーノルドと話していたエミリオが、シルヴィアが眠ってしまった事に気がつく。
「ふふっ。全く警戒心も何もない。」
「そうだね。我々の事を家族のようにでも思ってくれているのかな。」
「それは、喜んでいいのか悪いのか分からないな。」
アーノルドは苦笑いを浮かべる。
「この旅に彼女が帯同してくれて本当に助かった。」
「……私たちだけではこのスピード感でここまで来られなかっただろうね。」
「それどころか、彼女なしではメンバーの欠落があってもおかしくなかった。」
「そうだね。」
「今ここに全員無事でいられるのは奇跡だと思うよ。」
エミリオの言葉にアーノルドも頷く。
「アーノルドがどうしても彼女を連れて行きたいと言った時にはどうしたものかと思ったけれどね。君の目に狂いはなかった。」
「彼女は唯一無二の存在だ。王国にとっても……私にとっても。」
「本当に……。」
二人は眩しそうにシルヴィアの寝顔を見つめる。
「もちろん、私にとっても。」
「……エミリオでもあげないよ。」
アーノルドはシルヴィアから視線を外すことなく声のトーンを少し下げる。
「ヴィアはモノではないよ。」
エミリオが感情の読めない瞳でアーノルドを見る。
「……分かっている。」
「ふふっ、本当に余裕ないね。そんなんだからヴィアに逃げられるんだよ。」
「うるさいな。」
アーノルドはエミリオに対しても不機嫌さを隠さない。
「ごめんごめん。……でも気をつけてね。ヴィアに逃げられてアーノルドが暴れ出したらロゼフィアーレも滅びちゃうから……。『私は』アーノルドを応援してるよ。」
「それは『ありがとう』って返せばいいのかな?」
「任せる。じゃあね、おやすみ。」
エミリオは片手をヒラヒラと振りながら談話室の扉を出て行った。




