64.欠片の行方
フェルマータの街まで戻った一行は、一度宿に戻り身なりを整えた後、少し落ち着いたレストランに向かった。『浄化の日』では初めてとなるミーティングを行うため、個室のある店を選んだのだ。
「ダークホールが再生している可能性がある、という事だったね。」
まずはエミリオが口を開く。
「それが事実であれば、我々がやっている事は意味がないという事か……。」
「それが、そうでもないんですよ。」
重苦しい雰囲気の中、シルヴィアが明るい声を上げる。
「今日確信しましたが、ダークホールの欠片は全て同じ方向に飛んでいっています。」
「それは確かか?」
「はい。最初は風の向きや、偶然が重なっているだけかと思いましたが。全てのカケラが北の方角。それもノルド山の方向に飛んで行きました。」
この国最北端にある山、それがノルド山だ。そこは一年中雪が積もっている山で、普段はあまり人が近寄らない場所だ。一年半ほど前、開発目的で北側の国オルディア帝国が入山し、頂上付近で爆発を起こして大雪崩の事故を起こしていた。頂上より向こう側は、彼らの領地のため入山も開発も問題ないのだが、こちらに人的被害が出ては困るので一応警告だけはしてたそうだ。雪崩の影響か、山から魔物が大量に降りてきて、麓の警備をしていた騎士団が一時は壊滅寸前であったと聞いている。しかしそれはオルディア側も同じ。魔物の増加スピードは向こう側の方が酷かったようで、国土のほとんどが魔物に占領され、今はもう人が住めなくなっているという。住処を追われたオルディアの国民は次々と隣国へ亡命しているらしい。
ダークホールが広がっていけばオルディアと同じような事が起こるかもしれない。よって慌てて浄化しているのだが、ダークホールの欠片は全てノルド山へ飛んで行っている。そしてまた再生するダークホール。もうダークホールはノルド山から来ていると言っても良いのではないだろうか。オルディアの滅亡の原因もノルド山。そんな偶然あるだろうか?オルディアに起こった悲劇も、ロゼフィアーレ王国と同じようにダークホールが原因だったのではないかと思う。
「ノルド山か……。」
シルヴィアは事実とそこから考察した事を交えて、頭の中にある事を全て話した。
「ちんたら浄化して回っている時間は無くなって来たな。」
「もうこれ以上、ダークホールは増えないと思っていたからね。」
「しかし、先日のようにダークホールが再生している可能性があるならば、それ生み出している原因を突き止めなければならないな。」
「そうですね。このままだと永遠に終わらないイタチごっこをさせられ、こちらが消耗するだけです。」
「幸い絶好のタイミングで、騎士団や冒険者たちの戦闘力が急激に上がっているみたいだし、各地のダークホール周辺の討伐は彼らに任せても大丈夫だと思うよ。」
アーノルドがシルヴィアの方に顔を向けてニコリと微笑む。この件に関して、私に説明を求めるのはやめてほしい。本当に私は何も知らない。
「ダークホールの元凶もわたくしの【浄化】で効果があるといいのですが。」
「……いずれにせよ、行くしかない。オルディアの入山が原因であるならば、僕も責任を取らなければ。」
そう、オルディア帝国はノエルの母国である。
ノエルがロゼフィアーレ王国留学中にオルディアが魔物に占領される事件は起こった。彼はすぐに帰国しようとしたが、両親から帰ってくるなと止められたのだ。ノエルだけでも生き残るようにと。
「ノエルのせいではないわ。」
「もちろん、オルディア帝国のせいでもないです。」
「皇帝陛下もまさかこんな事になるとは思っていなかっただろうしね。」
「ロゼフィアーレとオルディアのためにも。行こう、ノルド山に。」
「この7人なら大丈夫だろう。」
「ああ、やるしかない。」
「……うん。」
こうして、次の目的地はノルド山に決定した。




