62.もぬけの殻
ダークホールの浄化を終えたシルヴィアとアーノルドはイレーネと共にオーガの討伐に加わり、一瞬にして事態を収拾させた。急を要する重傷者のみ治癒をイレーネとシルヴィアが行い、軽傷者や街の片付けは騎士団と自衛団に任せ、一行は町を後にした。真っ暗闇の中を【聖火】で明かりをとりながら馬で走り、宿に着いた時には日付が変わっていた。明日は予定通りラナロッソの洞窟に行く事になる。それぞれ自分の部屋に入り、すぐに休む事にした。
「おはようございます!」
「……おはよう、ヴィア。今日も元気だね。」
「あ……。」
「どうした?」
「皆さんにも体力回復薬と魔力回復薬をお渡しすれば良かったですね。すみません、うっかりしてました。」
「おい……。」
いつものキラキラ感のないメンバーを見て、シルヴィアは申し訳ない気持ちになる。
一日中馬車で移動したのに、さらに馬で10km往復して、オーガを1人あたり少なくとも5体は倒して、住民避難のために走り回っている。さすがに疲れ果てていた。そして昨夜眠ったのが日付が変わってから。日付を変わってから眠ると、魔力も体力も半分しか回復しない。『ロゼ恋』の基礎中の基礎のシステムだ。一番初めに説明される。昨夜は疲れすぎていて、そこまで頭が回っていなかった。よく徹夜で作業するシルヴィアは、無意識に自分だけ魔法薬を飲んで眠ってしまった。習慣って怖い。
「ちょ、ちょっと待ってて下さい!」
慌てて部屋に魔法薬を取りに戻る。
体力回復薬と魔力回復薬を一本ずつ全員に配り、30分ほどして皆にいつものオーラが復活した。シルヴィアの魔法薬の効果はバツグンだ。
「ありがとう、助かったよ。」
「これでなんとか今日も動けそうだね。」
「魔力も回復したわ。ヴィアの魔法薬はすごいわね。」
「本当にすげえなヴィア。」
「ただのバケモノかと……おっと。」
オズワルドが失礼なことを言いかけたが、イレーネに肘打ちをくらい口を閉じる。
皆がキラキラを回復したところでエミリオはミーティングを開始する。
「今日は予定通り、ラナロッソの洞窟に向かう。連日の討伐で申し訳ないが、よろしく頼む。」
「オーケイ!」
「問題ない。」
「……でもひとつ気になる事が。」
せっかく皆のキラキラを取り戻せたというのに、シルヴィアの表情は暗い。
「どうした?」
「それが……。」
アーノルドとシルヴィアは昨日の【浄化】の際に感じた事をそのまま伝え、ダークホールが別の場所で再生している可能性を伝えた。
「そんな事が……。」
「まだ可能性の段階ですが、それも頭に入れてこれからの事を考えた方がいいかと。」
「そうだね。貴重な情報をありがとう。」
ミーティングはこれで終了し、各自準備を整え、ラナロッソの洞窟に向けて出発した。
「これは一体、どういう事かな。」
ラナロッソの洞窟の入り口で7人は立ち尽くしていた。何故か。その中から騎士団がゾロゾロと出てきたからだ。
「エミリオ殿下、聖女様、アーノルド様お疲れ様です!」
「ここで何を?」
「は!昨晩はテルミネの町で皆様にご協力頂いたため、今日は我々で何かできる事はないかと思い、こちらで魔物の討伐をしておりました。」
「ダークホールまでに発生していた魔物は全て排除しております。」
「こちらとしては物凄く助かるが、この速さで?しかもこの人数……。」
「王都にあるアトリエでレンタルされている魔道具と、武器や防具の魔術付与により、この1週間ほどで騎士団はかなり戦闘力がアップしております。」
「「「「……。」」」」
全員が無言でシルヴィアの方を振り返る。
「なななな何ですか?!私、知りませんよ!」
シルヴィアは全力で首を横に振る。
「そのアトリエで売られている魔法薬もすごい効果があり、明け方まで作業しておりましたが、皆この通り体力も回復しております!」
「「「「……。」」」」
再び無言でシルヴィアの方を見る6人。
「……。」
今度は心当たりがあり過ぎたため、シルヴィアは王都の方角の空に目を逸らした。『ビアンカ、最近報告が何もないけど、一体何をやっているんだ……。』と心の中で泣いていた。アトリエは当初、平穏な生活を送るための隠れ家だったのだ。既にもう全然隠れられていないが、そこまで目立つ必要は全くない。
「本当に何にも出てこないね。」
「もぬけの殻だな。」
「すごいですね、騎士団の方々!」
「ふふふ、すごいのはヴィアのアトリエではなくて?」
「聞いたところ、冒険者たちにも出回っているらしい。冒険者パーティーもかなり戦闘力が上がってるんじゃないかな?」
「見ろ、ダークホールだ。」
「魔物がいないと、こんなにも簡単に辿り着くんだな。」
その後、イレーネが浄化をして呆気なくラナロッソの洞窟での仕事は終了した。ちなみにダークホールの今回の感情は今までとは別のものだった。それは分かるのだが、どんな感情かと問われると誰も明確な答えを出せなかった。おそらく『憎しみ』だと思うのだが、このメンバーの中で人を強く憎んだ経験を持つ者がおらず、確信は持てなかった。そして、今回も砕け散って飛び去る。
「【土魔術 重力軽減】【補助魔術 速度上昇】」
シルヴィアは身軽になり、スピードを上げて洞窟の出口に向かうカケラを追う。シュタタタタッと目にも止まらぬ速さで洞窟の外に出ると、カケラが飛んでいった方向を確認する。
「やっぱり……。」
シルヴィアは北の空を見上げながら呟いた。




