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ヒロインは早々にシナリオから離脱したい  作者: 朔島 涼
六章.ゲームの強制力、最大のピンチ

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56.帰りの馬車にご用心

2時間ほどでさっきと同じ馬車がシルヴィアたちを迎えに来た。馬車が来るまでアーノルドから永遠と逃げ回り続け、それはもうさらにクタクタになって馬車に乗り込む。そしてシルヴィアは馬車に乗るなり船を漕ぎ始めて数分で眠ってしまった。


「ふふっ。本当に無防備だな。」


アーノルドは膝枕をしてシルヴィアの頭を撫でている。頬をつついてみるが、むにゃむにゃ言っているだけで起きる気配はない。既に街に戻ってきていてもうすぐ宿に着きそうだ。


ふと窓の外に視線をやると、ある魔道具店が目に入る。いい事を思いついた。


「すまないが、一度止めてくれるか?」


馬車を降りると、アーノルドはその魔道具店に消えていった。



シルヴィアが気がつくと、馬車はすでに今朝出発した宿の前に戻ってきていた。やっと戻って来れたとホッとして馬車を下りようとする。アーノルドが手を出してくれたので、「ありがとうございます。」とお礼を言ってその手を借りる。馬車の左側から手を出しているのに、左手を出したアーノルドにシルヴィアは少し違和感を感じる。そして重ねた自分の左手には少しどころではない違和感があり驚きの声を上げる。


「何この指輪?!」


見覚えのない指輪が左手の薬指にはまっていたのだ。


「ああ、コレの事かな?」


そう言いながら私の手を持ち上げるアーノルドの左手の薬指にも全く同じデザインの指輪がはまっていた。彼はそのままシルヴィアの指に唇を落とす。私の指にはまっているのがエメラルドグリーンの石、アーノルドの指にはまっているのがスカイブルーの石。その意味を考えると怖くなり、慌ててはずそうとしたがびくともしない。何らかの呪いがかかった指輪であると確定した。


「あははは。酷いなあ、せっかくのプレゼントなのに。驚いた?そんなに慌てなくても、途中で通りかかった魔道具屋さんで買った、魔力吸収抵抗用の指輪だよ。同じ事が二度と起きないようにと思ってお揃いで買っておいたんだ。」


愉快げに笑うアーノルドをジト目で睨め付ける。


「お揃いにする必要と、左手の薬指につける必要ありますか!?」

「いや、私がそうしたかっただけ。ごめんね。」


アーノルドが眉を下げて笑う。シルヴィアはこの顔に弱い。おそらくそれを分かっていて、多用してきている気がする。あざとい。


「一度効果を発揮すると壊れて消えてしまうらしいから、そしたら本物を用意するからね。」

「本物?」

「そう、結婚指輪(ほんもの)。」

「……長持ちしてくれるといいですね、この指輪。」

「そんなに気に入ってくれたの、その指輪? ちなみに、壊れるまで外れることはないそうだから。どちらにしても僕以外の人から指輪は貰わないでね。」


背中がゾクゾクする。決して良い意味ではない。大好きな推しの顔で、大好きな推しの声でヤンデレるのはやめてほしい。アーノルドとはそういうキャラではない。突き抜けた優しさの持ち主で、ヒロインが別の人のルートを選んだらそれを応援しちゃうくらい心の広い優しいヒーロー。それが私の推しアーノルドだ。


ヒロインに近づく別の男を八つ裂きにする男も、不意打ちで口付けしてくる男も、寝てる間に意味わからない指輪を勝手につける男も、その指輪がはめられた私の左手を愛おしそうに撫でる男も私の推しのアーノルドではないのだ。私の推しを心から返してほしいと思う。何がいけなかったんだろう。やり直したい。王宮の出発日じゃダメだ。


「一度目のラヴィア火山から出直さないと……。」


タイムマシンの設計図を真剣に考えながら部屋に戻り、その日はそのまま眠ってしまった。

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