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ヒロインは早々にシナリオから離脱したい  作者: 朔島 涼
六章.ゲームの強制力、最大のピンチ

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55.ゲームの強制力から逃れたい

とりあえず樹海にもう用はないので、泣きついているアーノルドを引き摺りながら馬車まで戻る。へばりついて離れないアーノルドを宥めながらようやく一息つく。


「……。」


しかしその様子を見ていたエミリオが馬車を止め、何を思ったのかシルヴィアとアーノルドを馬車から放り出した。先にアーノルドを下ろして、シルヴィアはアーノルドに受け止めさせる。『酷い……まあまあ疲れてるよ?私。』とシルヴィアは思う。


「また迎えを寄越すから、2人でゆっくり話すといい!」


馬車の窓から笑顔で手を振るエミリオ。


「ええっ、冗談ですよね?!それって何分後ですか!もしかして何十分後とか、何時間後とかですか?!」


アーノルドの腕から飛び降りたシルヴィアは馬車に掛けより、エミリオに問いかける。


「んーー、分かんない。」


エミリオは首を傾げながらにこりと微笑む。


「へ?」

「じゃあ、また後でね。」


そして出発の合図を出す。


「う、嘘でしょ。まって下さーーーーい!」


シルヴィアは膝から崩れ落ち、泣きながら手を伸ばしたが、無情にも馬車は走り去ってしまった。もうこれはゲームの強制力が働いているとしか思えない。何としてでも2人きりにしてやろうという強い意志を感じる。シルヴィアは膝と両手を地面につけたまま、なかなか起き上がることができない。やっと休めると思ったのに。


「ごめんね、ヴィア。」

「いえ、アーノルドが悪いわけでは…。」

「私なんだ。」

「え?」


シルヴィアはやっと顔を上げた。


「私がヴィアをこの旅のチームに迎えるようエミリオにお願いしたんだ。」

「…。」


正直に言おう。『お前か…。』と思っている。多分顔にも出ているだろう。シルヴィアはさすがに四つん這いのまま会話をするのはどうかと思い、おもむろに立ち上がる。


「ヴィアと同じ討伐に参加して、私は命を救われたんだ。あの、ラヴィア火山で。」

「あ…。」


あの時の、とシルヴィアはピンとくる。ラヴィア火山での出来事はシルヴィアにとって最大のトラウマであり、最大の汚点だ。自分の参加する部隊であのような重症者を出すなんて、と。


「最初は君への好奇心からお願いした。しかし、一緒に旅をしながら、一緒にいられる事に喜びを感じるようになっていった。」

「そうですか。」


やっぱり面白人間だと思われていた。


「でも今日、ヴィアをこの旅に勧誘した事を初めて後悔した。あんなに怖い思いをしたのは初めてだ。自分が焼き殺されそうになった時よりも怖かった。ヴィアを失うんじゃないかと。」

「……ごめんなさい。」

「もう二度とあんな無茶はしないと約束してほしい。」


見たこともないほど辛そうな顔をしているアーノルドを目の前にして、シルヴィアはどうしたものかと大きく息を吐く。


「アーノルドを、そして皆んなを驚かせてしまった事は申し訳なく思います。でも、それは約束できません。」

「ヴィア…。」


アーノルドは目を見開く。まさか拒否されるとは思っていなかったのだろう。


「私ができると思ったことは最大限力を尽くしてやりたいし、必ずやり遂げる。絶対にラヴィア火山のような後悔をしたくないんです。さっきだって上手くいきましたよ?同じ場面に遭遇したら、きっとまた迷いなく同じ事をします。」

「私がヴィアの意図を分かっていなかったら…?魔術に失敗していたら…?」

「アーノルドなら絶対分かると思ったし、失敗しないと信じていました。まあ、骨くらいは折れる覚悟でしたけど。」


シルヴィアはヘラリと笑う。


「……ヴィアは眩しすぎるね。そんな君だから私は好きになったんだけど。」


アーノルドも眉を下げて笑った。


「分かった。じゃあっ……。」


アーノルドが会話の途中で不自然に視線を斜め上に向ける。


「えっ?」


シルヴィアはつられて振り返った。まだ魔物が残っていたのかと目を凝らすが何も見当たらない。


「何もないじゃないですか。」


アーノルド様の方に向き直ると、その美しい指で顎を掬われ、さらにこの世のものとは思えないほど美しいご尊顔が目の前に迫りシルヴィアは驚く。


パシッ。


「何するんですか?!」


いえいえ、元公爵令嬢もとい伯爵当主たるもの、まさか男性の頬を叩いたりなどしませんことよ。ただ、後に飛び退こうとしたのですが、両手首をパシリと掴まれて全く動けませんけどね。両足で後ろに飛んだため、かなり不細工な格好ではございますが、貞操の危機でしたのでそれどころではありません。


「何って、口付けをしようかなと。」


アーノルド様は悪びれる様子もなく、さも当たり前のように笑顔で答える。


「な、何考えてるんですか!し、しかも…舌出てましたよね!」


打って変わってシルヴィアは半泣きである。


「何を考えているかと言われれば、ヴィアの事が好きすぎるなと。だから口付けしたいなと思って、深い方。」

「なっ、ふか…」


シルヴィアは真っ赤になってワナワナと震え出す。


「ふっ。」


アーノルドが笑った、と思った瞬間に腰を引き寄せられおでこにキスをされる。


「ごめんね、あんまり可愛いから揶揄いたくなっちゃって。」


シルヴィアは解放された手でおでこを抑えながら後ずさる。


「もう、私で遊ぶのやめて下さい!」


シルヴィアは涙目のまま睨め付ける。


「ふふ、避けられなかったらそのまま奪っちゃおうと思ったんだけど。」


その言葉を聞いて、シルヴィアはその手を口元に移してさらに距離を取る。


「はは、あれだけ大袈裟に避けられたら、流石に無理矢理しないよ。同意の上じゃないと意味ないしね。」


アーノルド様は困ったように笑ったが、全然困っていないことをシルヴィアは知っている。

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