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ヒロインは早々にシナリオから離脱したい  作者: 朔島 涼
六章.ゲームの強制力、最大のピンチ

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54.ダークホールの守護者

「グルルルル…。」

「……ですよね。」


多分みんな同じ事を思っているだろう。そんな飛んでいき方は反則だ。砂のように細かい粒子だと思っていたそれは、想像よりも大きな破片だったらしく、硬そうなドラゴンの皮膚をザクッザクッと傷つけていった。そしてもちろんドラゴンは起きた。唸り声を上げて目の前のシルヴィアたちを威嚇する。シルヴィアは前世の映画などでよく見た、宝箱の中身を盗んだらガーディアンが怒り出す的な展開に似ているな、などと呑気な事を考えていた。


「ヴィア、エミリオとイレーネを連れて逃げろ!」


オズワルドからまさかの指示が飛んでくる。じっと立ち尽くして考え事をしていたせいで、怯えていると思われたのかもしれない。


「グオオオオオオーー!」


ドラゴンの咆哮をつ合図に戦闘が始まる。


「【風魔術 風神暴斬】」

「【雷魔術 雷神滅落】」


アーノルドとオズワルドが魔術を乱発し、ノエルが後方から弓矢を放ち視覚の邪魔をする。皆が作戦通りに動いている中、シルヴィアだけが異質な状態だ。しかし、シルヴィアはボーとしているわけではなく、ましてや怯えているわけでもない。ずっと考えている。ダークホールの欠片が少し当たっただけで、あのドラゴンの皮膚に傷がついた。しかし、アーノルドとオズワルドの上級魔術ではその皮膚はびくともしない。威力が足りないわけはない。


「相性が悪いな…。」


シルヴィアは呟いた。エミリオに魔力が残っていれば。いや、せめてさっきの欠片を少しパクっておけば。そんな非現実的な願望が頭をよぎる。


「今使えるのはコレ、しかない。」


手のひらに乗っているアカンサスのトゲを見つめた。残り二つだ。そのうちの一つをつまみ取り、ダガーの先にくっつける。武具に毒を固定する時に使われる接着剤に速乾の補助魔術を付与した優れものを使っている。もちろんシルヴィアのオリジナル道具だ。名前はまだない。


「よし!」


きちんと固定されている事を確認して、シルヴィアはそのダガーを……投げた。


ヒュンッ。


「ギヤアアアーーーー!」

「ヴィア、何をしている!」


……効いた。苦しんでいるし、刺さっている。


「よしよし、となると。」

「逃げろ、ヴィア!」


ドラゴンがシルヴィアを睨みつける。ドラゴンの注意が自分に向いている事を確認し、シルヴィアは木に登り始めた。ものすごい勢いで。


「魔術が使えたら【重力軽減】してジャンプするだけなのに。」


そう言いながらも、ぐんぐん上まで上がっていく。ドラゴンの頭の高さよりもかなり目線が上になったところでシルヴィアは振り返る。すると、ドラゴンはシルヴィアに向かって大きく口を開けた。


「アーノルド、後は頼みます!」


シルヴィアはそれだけ言うと、ドラゴンの口めがけて飛んだ。


「なっ!」

「ヴィア!」

「それから、皆さん!」


ドラゴンがブレスを吹くために開けた口に向かって、空中で弓を引き絞る。


「このチームの白魔術師に深窓の令嬢をお求めでしたら他を当たってくださいっ!」


そう言いながら、矢を放った。


「【風魔術 突風】」


アーノルドの声が聞こえて目を瞑る。上手くいってホッとする気持ちと、『マジかー、【突風】かー。何本か骨が折れるんじゃね?』と言う諦めの気持ちが共存していた。しかし、きちんと手加減してくれたようで、風は思ったよりも優しくシルヴィアを地上に下ろしてくれた。着地するなりドラゴンの方を振り返る。ドラゴンはもう声を出すこともできず、のたうち回っている。とどめをさしてあげよう。


「イレーネ、浄化を!」

「【浄化】」


ドラゴンの身体はボロボロと崩れて消えていった。そのドラゴン、闇属性であった。


「ヴィア、驚かせるなよ!」

「死んだかと思った。」

「ふふ、舐めないでください。私、魔術使えなくてもそこそこ強いんですよ。小さい事から相当の訓練積んでるので。」

「最初からイレーネの浄化ではだめだったのか?」

「あれだけ大きな個体で、ピンピンしている状態では無理だったと思います。ダークホールの浄化の後ですし。エミリオの聖魔術が使えれば一番よかったのですが。ん?」


話しているシルヴィアの目の前にふらふらと近づいてきたアーノルドが立ちはだかる。そしてシルヴィアを無言で見下ろすと、その両頬をびよんと思い切り引っ張った。痛い。


「はほ、はへへふへはふは(あの、やめてもらえますか)?」

「びっくりさせないで。ヴィアを失うかと思った。」

「はひ、ほへふははい(はい、ごめんなさい)。」


一刻も早く解放されたいシルヴィアは速攻で謝罪する。アーノルドは頬から手を離すと、背中に手を回して優しく抱きしめる。その悲しげな表情をみて、シルヴィアは避ける事は出来なかった。


「無茶ばかりしないで。お願いだから。」


抱きしめられたままで、アーノルドの顔は見えなかったが、その声は泣いているように聞こえた。

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