48.シルヴィア独立の裏側で
シルヴィアが幼い時からメーティス学園の入学を嫌がっていることは分かっていた。だが、貴族令嬢、ましてや公爵家で魔力の最も強いシルヴィアが容易に避けられる道ではないことも明らかだった。
しかし、諦めることなく努力し続けるシルヴィアに対して、父は徐々に本気で打開策を考えるようになったそうだ。もちろん平民になれば入学義務はなくなるが、その存在と魔力の高さに気づかれれば、強制的にどこかの貴族の養子に入れられて、入学させられる未来しか見えなかったという。
確かに、今もこうして高位貴族、王族に混じって旅に駆り出されているのだからありえる話だ。
メーティス学園の入学は貴族令息令嬢の義務、魔力の高いものは平民でも努力義務。しかし、貴族当主であればどうだろうと父は考えた。幸いにも宙に浮いている爵位があり、シルヴィアにはその継承権がある。しかしながら、実際に継承できるのは満15歳を迎えた者。だから、シルヴィアの独立をのらりくらりと先延ばしにするため、無理難題をふっかけていたという。
「まあ、難題だと思って出しているのに、次々と軽くクリアしてくるからこっちは本当に大変だったのよ。」
母は苦笑いを浮かべている。
「ダンスやマナーのレッスンを受けさせられていた事、絶対に必要ないのに……と思っていましたが。今は納得です。」
伯爵家当主ともなれば、貴族としてある程度の教養やマナーが身についていなければ困るだろう。それにしても今までの3年間、伯爵としては何もしていなかったが大丈夫なのだろうか。
「まあ、3年経って事業が上手くいってなかったら、約束通り強制的に領地に引き取る予定だったんだけどね。」
予想以上の事業の成功と、この旅への同行でそれどころではなくなってしまったけどと母は眉を下げて笑う。
「本当に頑張ったわね、シルヴィア。」
末っ子のシルヴィアは何をしても家族全員から褒められ、可愛がられて育ったが、母だけはとても厳しかった。それだけに、こうして褒められるのはとても嬉しい。
「ありがとうございます、お母様!」
「でもやっぱり、私もそろそろダーリンのところに帰りたいから、旅が終わったらここをよろしくね。」
「え?」
美しい笑顔でウインクを飛ばす母を見て、頭がくらりとする。今までで一番の難題をここで出してくる母。流石だ。
「あ、それからついでにお婿さんも連れてきてくれると最高だわ。」
ぐふっ……。シルヴィアはこの旅を通して最大のダメージを受けた。ただ座って話をしていただけだというのに、シルヴィアはもはや瀕死の状態である。
「お、お母様。一万歩譲って、領地の件は了解しました。私のやるべき事です。しかし、お婿さんは……何卒ご容赦下さい。」
「あらそう?残念。」
その言葉とは裏腹に、母は全く残念がっているようには見えない。とても楽しそうだ。父の元に帰れる目処がつき、テンションが上がっているのかもしれない。今は別々に生活をしているが、本当はとても仲がいいのだ。どうやら伝えるべき事は全て言い切ったらしく、母は「じゃあまた後でねー。」と手をひらひらとさせて応接室を出ていった。
「さて、困ったな。」
一人応接室に残されたシルヴィアは座っていたソファの背にぽすんっ、ともたれかかる。領地の件は早急に何とかしなければならない。王都に戻り次第、ビアンカとリヴィオに今後のアトリエの事を相談しようとシルヴィアは思う。
「けど今は、ダークホールの浄化と次に起こるアーノルドのイベントに集中しよう。」
シルヴィアはのっそりとソファから立ち上がると、大きく息を吐きながら応接室を後にした。
その日一行は伯爵の屋敷でゆっくりと過ごし、皆で晩餐をとって楽しい時間を過ごした。(ずっと考え事をしているシルヴィアを除いて。)
明日はペルソの樹海に向かうという事で、晩餐の後は早めに解散してすぐに休む事となった。(考え事をしながら今日も寝落ちしたシルヴィアを含む。)




