109.ビアのアトリエ、出張販売始めます
「この度、ビアのアトリエでは出張販売を開始する事になりました!」
ビアンカは突然大きな声をあげて拳を高く掲げる。
「…………。」
「ちょっと聞いてるの、リヴィオ!」
「ああ、僕に言ってたんですね。すみません。」
「もうあんたしかいないでしょ、今。」
アトリエはすでに閉店している。
「……………はあ。何でまた出張販売を?」
ビアンカの詳しく聞いてほしいオーラを汲み取り、リヴィオは面倒くさそうにしながらも一応質問してみる。
「よくぞ聞いてくださいました!実は最近、遠方からここまで魔法薬や魔道具を買いに来てくれるお客さんも多いんです。」
「まあ確かに。」
「で、ビアンカは考えました。こちらから販売に伺えばもっと売れるんじゃないか……と。」
「なるほど。それで商品はどうやって運ぶんですか?」
「ふっふっふっ……商品の運搬は冒険者の方にお願いし……」
「ああ、そういう事ですね。」
「ちょっと!納得しないで説明させて下さいよ!」
「つまり、仕事の減っている冒険者たちにも仕事が与えられる、商品が売れてアトリエは儲かる、地方のお客さんたちは王都に足を運ばなくていいから助かる、とそういう事ですね。」
「……まあそうですね。」
自分で説明したかったビアンカはジト目でリヴィオを見つめる。冒険者たちの仕事が減っている件についてはロゼフィアーレ王国としても問題になっていた。ダークホールが全て浄化された事により魔物の数は減り、また騎士団や冒険者個人個人の実力が上がった事により一人当たりの討伐数が増えている。それにより特に王都周辺の魔物討伐依頼は激減している。今冒険者ギルドに持ち込まれる依頼のメインは護衛や採集などだ。
「でも商品や売り上げを持ち逃げされたりは?」
「まず商品は各地の冒険者ギルドに並べてもらう事になっています。その売り上げはギルドを通じてアトリエに送金されるので、売り上げの持ち逃げはおそらくないかと。さらに商品を運ぶ冒険者はアトリエから冒険者ギルドを通じて指名依頼させていただきます。常連さんを中心に信頼できる冒険者の方にお願いしてますので商品を持ち逃げされる心配も低いと思われます。」
「冒険者と冒険者ギルドを通したらアトリエの売り上げ無くならないですか?」
「いい質問ですね、リヴィオくん!」
「はあ……。」
リヴィオは大きめのため息をつく。
「価格は王都から販売先のギルドまでの距離によって変えさせてもらいます。それでも王都まで買いにくる旅費を考えればお得になるように設定するのでお客さん側にも損ではないはずです。」
「そんな上手くいきますかね……。」
「私たちの力だけじゃ難しいでしょうね。」
「どういう事ですか?」
「仕事の減った冒険者たちに仕事を与えられる事業という事でロゼフィアーレ王家の認可、伝説の白魔術師ヴィアが作った魔法薬や魔道具という冒険者ギルドの信頼、国の英雄マルティーニ伯爵シルヴィア様がオーナーをしているアトリエというブランド力。失敗する要素が見当たりません。」
「………まあ、いいんじゃないですか。店長はビアンカさんですし、僕は言われたものを作りますよ。」
リヴィオは肩をすくめて作業場の方へ戻って行った。
「やりますよ!国運を賭けた一大プロジェクト!」
こうして勝手に国を背負って始まったビアンカの新事業。ビアのアトリエはロゼフィアーレ王国初の契約雇用の形を確立して、さらに王国初の商品の出張販売を始めたのだった。




