110.サヴォイア公爵家の兄弟喧嘩
イレーネとオズワルドの結婚式は王都で盛大に開かれた。美しいドレスを身に纏ったイレーネはとても素敵だったが、シルヴィアは少し違和感を感じる。
「何だかイレーネ雰囲気変わりましたか?」
「ふふ、幸せ太りで少し体重が増えてしまって。」
「……。」
隣にいるオズワルドに視線を向けたが、ふいっと目を逸らされてしまった。なぜだ……。
まあとにかく二人が幸せそうなのでいい式だったのだと思う。王女と辺境伯令息の結婚式とあって、当主たちも続々とお祝いに駆けつけた。もちろん浄化の旅メンバーの父や母も参加している。という事は……。
「貴方がシルヴィア様ね。お会いできて嬉しいわ。」
「アーノルドがいつもお世話になっているね。」
アーノルドのお義父様お義母様と初めての対面である。
「サヴォイア公爵様、公爵夫人。ご、ご挨拶が遅くなり申し訳ございません。マルティーニ伯爵家当主シルヴィアでございます。今後ともよろしくお願いいたします。」
アーノルドが二人を紹介してくれたため、シルヴィアも名乗って挨拶をさせてもらった。なぜ今まで挨拶に行かなかったのか。領地の事で忙しかった事もあったのだが、「どうせいつか会えるんだから慌てて会いに行かなくていいよ。」とアーノルドから言われていたのだ。それを鵜呑みにしていたのかって? 正直に言うとビビっていたのだ。だって、筆頭公爵家だぜ……。
「挨拶なんて別にいいのよ。アーノルドがちゃんとお相手を見つけてきてくれて本当に安心したわ。」
「ああ、結婚する気はないのかと思っていたからね。」
公爵と公爵夫人は顔を合わせて笑い合っている。
「ああ、本当に。アーノルドは女の子に興味はないと思っていたよ。学園では男の子ばかりとつるんでいたからね。」
公爵夫妻の後ろからアーノルドによく似た長身の男性が話しかけてきた。絶対にアーノルドの兄弟だと分かる。雰囲気は全然違うが顔はとてもそっくりだ。アーノルドは普段は穏やかでほわりとした空気の持ち主だが、この人はスマートで洗練された印象を受ける。アーノルドが騎士で筋肉質であるのに対し、彼が見るからに文官というすらりとした体型をしているからかもしれない。
「ルッカ兄さん。私は貴方のように来るもの拒まずというのが苦手なだけです。」
「本当に口が減らないね。」
「それはお互い様だ。」
おお、兄弟喧嘩だ……とシルヴィアは感動していた。アーノルドは何だか綺麗すぎて完璧すぎて人間味がない感じがしていたのだが、こうして家族と話しているアーノルドはただの普通の……だいぶ綺麗な人にしか見えない。とにかく人間らしい姿が見られてシルヴィアは少しホッとしている。
「ごめんね、ヴィア。」
黙ってそのやり取りを見ていたため、兄弟喧嘩に驚いていると思ったのかもしれない。
「アーノルドに飽きたら私のところにおいで。いつでも待ってるから。」
「ひえっ!」
突然目の前に現れた美しすぎる笑顔に驚き、シルヴィアは思わず小さな悲鳴を上げる。
「兄さん!」
「こらルッカ。せっかくアーノルドが素敵な女性を見つけたのだから邪魔してはいけませんよ。」
「冗談だよ。そんなに怒るほどの……すみません。」
激おこモードのアーノルドの笑顔はお義母様譲りだとシルヴィアは確信した。
「騒がしくてすまないね。またいつでも遊びに来るといい。」
「ええ、待っているわ。」
「はい!ありがとうございます!」
シルヴィアは胸を撫で下ろす。とにかく歓迎されているようで良かったと思う。挨拶に行かなかった事も特に気にしている様子ではなかった。お義兄様との言い合いも、仲がいい故に見える。
「ふふ、素敵なご家族ですね。」
「そうかな。」
アーノルドは苦笑いだが、久しぶりに家族に会えて嬉しそうだった。
そしてシルヴィアの父と母と兄弟たちにもアーノルドを紹介する事ができた。
「マルティーニ伯爵家に婿に入ってくれて本当にありがとう!シルヴィアがお嫁に行ってしまったら、またわたくしが領地に縛り付けられるところだったのよ。本当に安心したわ!」
「はい、お義母様。マルティーニ伯爵領は私たちにお任せください。」
アーノルドはふわりと微笑み母と握手を交わす。
「今は婚約中ですからね!まだ婿には入ってませんからね!」
大興奮でアーノルドと言葉を交わす母に、何度も訂正してツッコミを入れたが、全然話を聞いてくれない。途中からはもう諦めることにした。何はともあれ、人の結婚式を借りて無事に顔合わせを済ませる事ができた。
……不敬でごめんなさい。
両家ともに公爵家というのが信じられない軽さであった。




