103.エンディングのその後は
ランドルフは近衛隊に戻ると同時に近衛隊長に任命された。浄化メンバーに選ばれる前から候補に上がっていたそうだが、今回の功績により任命が確定し出そうだ。初めは恐縮していたランドルフだが、浄化の旅の間はエミリオから実地でその統率力と人心掌握術を直に学んでいたようなものだ。すぐに上手く近衛隊を取りまとめ、隊全体の実力アップを図りはじめた。今は近衛隊という職業の地位向上を目指しているという。
オズワルドはこの旅が終われば辺境伯領へ戻る予定であったが、ノルド山の魔物を一掃してしまったこと、ノエルがオルディアの皇帝になったことで王国の北の国境線を常駐して守る必要がなくなった。そのため、王都に滞在して魔術研究所の立ち上げ準備を行なっている。シルヴィアの魔術を間近で学び、まだまだ発展の余地があるのではと考えたらしい。その創立のための費用はイレーネが惜しみなく注いでいるため、数ヶ月で形になるだろう。
そういうイレーネは王宮で聖女としての仕事をしながら、オズワルドとの結婚準備を進めている。浄化の旅の途中で婚約誓約書を提出し、準備を進めてもらっていたため半年後には結婚式を挙げる予定だ。皆んなとの別れを惜しんでいたシルヴィアであったが、半年後には絶対に会えるという安心感で笑顔で領地に帰っていった。
エミリオは再び国王陛下の補佐で公務三昧の日々を過ごしている。シルヴィアを王太子妃に迎えられなかったショックで陛下が元気をなくしてしまい、浄化の旅前よりも忙しさは増しているらしい。留学中の第三王子を連れ戻して公務の手伝いをさせようかと真剣に悩んでいるらしい。陛下の元気を取り戻すために妃探しも近々始めるそうだ。
ノエルも皇帝として奮闘していると聞く。帝国といっても王都以外は壊滅してしまったため、まずは王都の周辺を立て直しているらしい。ロゼフィアーレの王国騎士団を派遣し、オルディア国土の巡回を行っているが魔物の異常発生も確認されてはいない。ナディアと力を合わせてきっと再建してくれるはずだ。
ちなみに、オルディアに派遣した騎士団には魔道具のアクセサリーと武具一式を貸与しているため、少人数でもかなりの火力ばあるはずだ。更にグループに一人は土魔術の得意なものを配置し、シルヴィア直伝の『野営の道具【圧縮】』『【土壁】の家作り』を取得してもらい、かなり快適に過ごしているらしい。そして【圧縮】という魔術であるが、シルヴィアは何でもないように行っていたが、魔道具を身に付けずに挑戦すると他の誰も成功する事はできなかった。実はかなりの魔力が必要だったのだ。
そして…………問題はアーノルド。
「こんなところで何してるんですか!」
シルヴィアは幽霊でも見るかの如く、その姿に驚いた。こんなところというのはもちろんマルティーニ伯爵領。
「やあ、ヴィア。王国騎士団を辞めてきてしまったんだ。養ってくれるかな?」
目の前に現れたアーノルドは騎士服を着てものすごく綺麗に微笑んでいる。
「あーーー。」
シルヴィアは自身の額に手をあてて座り込んでしまった。それはそれはスチルの如く美しい姿であるが、その現実に目の前が真っ暗になる。王国騎士団長の妻になるフラグは折れたが、王国騎士団長になるはずだった男を辞めさせた女になってしまった。そして、推しをヒモにしてしまった。辛い、辛過ぎる。
「アトリエに遊びに行ったら、シルヴィアは領地に行ってしまったと聞いたからすごく悲しかったよ。私は何も聞いていなかったからね。慌てて騎士団を辞めて追いかけてきたんだ。」
シルヴィアの前にしゃがんだアーノルドはしゅんと悲しそうな顔をしている。
確かに出発の日を伝えずに来てしまったことは良くなかった。しかし、マルティーニ伯爵領に行くことは知っていたはずなので大袈裟だなと思う。連絡を取ろうと思えば、王宮の通信機器でいつでも連絡を取れるのだ。
そう思いながらも眉を下げるアーノルドの頭をよしよしと撫でる。
「そうですね、ごめんなさい。」
来てしまったものは仕方がないとシルヴィアは諦める。
「じゃあ、一緒に領地経営でもしましょうか。」
「いいの?」
アーノルドはふわりと笑顔になる。
「はい。じゃあこんなところに座ってないで、とりあえず屋敷に入りましょう。」
庭の畑を手入れしていたシルヴィアはアーノルドとともに畑の真ん中に座り込んでいた。
アーノルドの手を引きながら立ち上がると、屋敷の方へと歩き出す。嬉しそうなアーノルドの顔を見上げながら、シルヴィアはさてどうしたものかと頭を回転させる。アーノルド以外は皆、『ロゼ恋』のエンディング通りの立場に収まろうとしている。この人だけが異常な行動を取ってしまっているのだ。
「ヴィア?」
真剣な顔でアーノルドを見つめるシルヴィアに対して、アーノルドがふわりと微笑み首を傾ける。
しかし、シルヴィアは思い出した。一番異常なのは自分であるという事。自分は『ロゼ恋』本編のシナリオにすら載らなかった女だ。(続編があるかもしれないが、怖いのでそれは考えないでおこう。)
「おかえりなさい。」
シルヴィアはにこりと笑ってそう言うと、アーノルドは一瞬目を見開きすぐに目を細めて笑う。
「ふふっ、ただいま。」
目の前にいるのは推しとは全く別のアーノルドだが、このアーノルドもまた愛おしいと思うシルヴィアであった。
お読みいただきありがとうございます!
これにて第二部終了とさせていただきます。
終盤に出てきた謎の人物がいましたが、第三部で活躍してくれるはずです。
第三部の再開まで少しだけお時間いただきます。
マルティーニ伯爵領編でまたお会いしましょう。
では。




