101.エミリオのつまらない人生
私は王になるために生を受け、生まれた瞬間から王になる事を期待された。そして王になるために育てられ、王になるために教育を受けた。自分の意思などというものはなく、周りもそれを求めていない。何のために自分が生まれたのか、考える事も許されない。答えはただ一つ。王になるためだ。
頭が良く、魔術の才も秀で、剣術の才にも恵まれ、人当たりもよく、見目麗しい。権力、財力もある。全てを手にしているようで、それでいて何ももっていない。何ともつまらない人生だと思った。彼女に出会う前は。
ヴィアは公女でありながら自分の好きなように生きて、やりたい事を全力でやっていた。正直にいうと、最初は少し羨ましかった。しかしヴィアはそうやって生きるためにとてつもない努力を重ねてきた事を知った。私はなんて時間を無駄にしてきたのだろう。何でもできるなんて思っていた自分が烏滸がましい。もっと本気でやれば、もっと全力でやれば、今見ている世界は全く違うものだったかも知れない。
「君が私の隣に居てくれぬのならば、王座などに微塵も興味はない。喜んで捨ててしまおう。」
羨ましいと思っていた彼女が、いつしか眩しいと感じ、そしてどんどん惹かれていった。あの日、彼女はこの言葉を冗談だと言っていたが、半分以上は本気だった。しかし、絶対に断られるだろうという事も分かっていた。アーノルドはきっと彼女を離しはしないし、彼女自身も本当はアーノルドに惹かれていっている。そしてやはり最終的に彼女はアーノルドと婚約してしまった。
婚約誓約書を提出された時、父は認可印を押すのをかなり躊躇っていた。彼女に私の婚約者になって欲しかったようだから仕方がない。しかし、それが許可されなければロゼフィアーレに厄災がふりかかると脅して押してもらった。厄災はもちろんアーノルドだ。彼はヴィアの隣にいるために、これまで以上に強くなった。しかしそれは彼だけではない。ランドルフ、オズワルド、そしてオルディアの皇帝となったノエルも忘れてはいけない。もちろんイレーネも聖女として格段に成長したと思う。彼らと一緒にこれからの時代を作っていける事に今は心がワクワクしている。そして彼らと同じ時代に生まれた事に心から感謝している。私はもう自分の人生がつまらないなどと感じることは二度とないだろう。
「ふふっ、私も彼らに負けないようにこれからも頑張らなければな。」
エミリオは旅の出発からこれまでの事を思い出し、懐かしい気持ちに浸っていた。
ドンドンドン。
回想に終止符を打つように執務室のドアが慌ただしく叩かれる。
「どうした?」
「失礼します。」
入ってきたのは第二王子のフレドだ。
「アーノルド様からこちらをお預かりしております。」
真っ青な顔をしたフレドから封筒を預かる。彼の様子を見てエミリオはこの中に書かれている内容をあらかた察した。
「あー、まあそうだよね。」
封筒を丁寧に開けて中身を確認したエミリオは苦笑いを浮かべる。
「兄上、どういたしましょう。」
フレドはエミリオに対応を確認する。
「まあ……どうしようもないから、『御意』とでも言っておいたらいいんじゃないかな。」
エミリオは読み終えた手紙を封筒の中に戻す。
「本当にそれでよろしいのですか?」
「何かあったら、真っ先にヴィアに連絡が行くと思うから多分大丈夫だよ。」
「ああ、なるほどですね。」
エミリオの一言でようやく落ち着きを取り戻したフレド。頭を下げて執務室を出ていった。
「ごめんね、ヴィア。後はよろしく。」
エミリオはそう呟きながらフレドから預かった封筒を机の引き出しにしまった。




