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Estate.  作者: 本庄茉白
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10/15

Date 8/12

 泣いていた。

 ただ、静かに。


 深夜、ふと目が覚めた。

 静かな風の音と、虫の声がする。

 空気を吸い込むと、夏の終わりの夜の匂いがした。

 なんとなく、寝付かれない。不思議と、目が冴えていた。

 俺は、眠ることを諦めて、ゆっくりと体を起こした。

 夏の熱を残したまま、空気はもう、秋へと向かい始めている。

 不意に、聞こえてきたのは、かすかな歌声だった。

 サキ。

 声を辿るようにして、縁側に出ると、サキが一人、庭に立っていた。

 声をかけるのをためらったのは、何故か。

 サキの口から紡がれるかすかな歌。

 そして、月に照らされるサキは、……泣いていた。

 ただ、静かに、サキは涙を落としていた。

 その雫が、月に照らされて、かすかに光る。

 サキの流す涙は、俺が知らないものだった。

 何故泣いているのか、一体何がサキをこんな風に泣かせているのか。

 そんなことは、きっと無粋だった。

 サキの涙は酷く儚く、まるでサキ自身のようで、まるで、……この、夏のようで。

 その時、その場所に存在したサキは、俺の存在を許さなかった。

 強く、そして、儚かった。

 壁を背に、廊下に腰を下ろした。

 サキの世界に触れたくはなかった。壊したくはなかった。

 目を閉じると、聞こえるのは静かなサキの歌声。

 決して涙に濡れず、決して壊れることのない、強い歌声。


 ……なあ、サキ。

 俺は、お前にかける言葉が、見つからないよ。


 ただ一人、この世界にたった一人になったかのように歌うサキ。

 その歌声は、きっと誰よりも強かった。

 目を閉じてサキの声を聴いていた俺は、いつの間にか、眠りに落ちていた。


 夢の向こうに、サキの温度を感じた。

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