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Estate.  作者: 本庄茉白
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11/15

Date 8/20

「まーたこんなとこで寝てるし」

 頭上から聞こえたそんな声に瞼を持ち上げると、サキが呆れたような顔で俺を覗きこんでいた。

「……よ」

「よ、じゃないよ。真宏さー、ほんとどこでも寝るよね」

「別に、どこでもは寝ない」

「嘘つけ。どこでも寝てるよ。部屋の机でも寝るし、居間でも寝るし」

 でも、ここが一番多いかな、とサキは笑った。

 庭に面した縁側からは、美しく染まった夕焼け空が見えた。

「……ここ、風が抜けて気持ちいいんだ」

 吹いてきた風にもう一度目を閉じる。

 聞こえるのは、蜩の声と風鈴の音、そして、優しい風が揺らす木々の葉擦れ。心地いいそれらの音に、俺は身を任せていた。

「ね、真宏、ちょっと頭あげて」

「ん?」

 言われた通りに頭をあげると、サキはそこに腰掛けて、ぽんぽん、と膝を叩いた。サキの意図するところがわかった俺は、笑いながらその膝に頭を載せた。

「サキさん固い」

「ばか、男の俺に女の子の柔らかさ求めないでくれる」

 軽口を叩いたら、ぺち、とサキに頭を叩かれた。

「痛いですサキさん」

「真宏がスケベなことを言うからだよ」

「えー、スケベじゃないでしょ、男のロマンでしょ」

「うわもーこの人なんか言ってるよー」

 他愛もないじゃれ合いが楽しくて、二人で笑った。

 二人で過ごす夏の終わりは、すぐそこに見えていた。

「真宏」

「ん?」

「風、気持ちいいね」

 そう言いながら、サキは目を閉じた。

 柔らかなサキの髪が、風に揺れる。

「……な、サキ」

「なに?」

「膝枕ついでにさ、もう一つ、お願いしていい?」

「え?もう一つ?」

「そ。子守唄、歌ってよ」

「っ、子守唄!?」

 サキが、吃驚した顔で俺を覗き込んだ。

 サキの目を見返して、笑う。

「ね。子守唄」

「……いや、子守唄って真宏さー」

「俺、サキの歌聴きたい。歌ってよ」

 困ったような、呆れたような、そんな顔をしたサキと見詰め合う。

 数秒の間。

 そして、サキは、苦笑しながら小さくため息をついた。

「……何がいいの」

「歌ってくれる?」

「歌わないって言ってもどうせ真宏諦めないでしょ」

「うん」

「うわ、うんとか言うし。……もー。……で?何がいいの」

 呆れたように、それでもサキは笑っていた。

 リクエストする曲は、最初から決めていた。

「Stand by Me.」

「うっわまたベタベタな」

「お前ね、ベタベタとか言うなって。俺好きなんだよ」

「……あはは、うん、真宏好きそ。……下手でも怒んないでよ?」

 サキは顔を上げ、空を見つめた。

 そして、耳に届いたサキの声は、酷く優しかった。



  夜が来て、世界が闇に包まれて

  月の光しか、僕ら見ることができなくても

  大丈夫

  僕は怖くない

  君がただ其処に、僕の傍に居てくれるなら


  ねえだから、傍に居て

  傍に居て

  大好きな大好きな人

  僕は君に、傍に居て欲しい


  ねえ、大好きな人。

  ……僕は、君の傍に居たいよ



 優しく語り掛けるサキの声を聞きながら、俺は目を閉じた。


 茜の空は、いつしか菫へと変わっていた。

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