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鳴海探偵事務所へようこそ  作者: デン
怪しい妻と謎の男
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8/20

「お待たせしてごめんなさいね。」


汗を拭いた蘭子が笑顔で戻ってきた。

彩花は不躾にならない程度に蘭子のことをじっと観察してみる。


やはり腕や脚は、一般女性と比べてもかなりしっかりと筋肉がついている。朝はふんわりとした袖の服やスカートであったため全く気付かなかった。


それでいて女性らしいシルエットだ。

身体についている脂肪の7割は胸部に付いているに違いない!


と、周りに気付かれないように彩花はそっと自分の胸を見た。


「お時間を頂いてしまいすみません。黒崎と言います。現役選手の方のお話を聞けるだなんて嬉しいです。」


黒崎は笑顔で話す。その笑顔に蘭子と神崎はすっかり黒崎の事を信用したらしい。


「黒崎さんはパワーリフティングに興味があるの?」


「受付の方の熱の篭ったお話を聞いて少し気になった、という方が正しいのかもしれません。内山さんはいつからこの競技を?」


「実は高校時代からなの!」


黒崎が上手く誘導しながら情報を聞き出していく。

歳が近そうな女性が競技に興味を少しでも向けてくれた、ということに蘭子も嬉しかったようだ。話がどんどん盛り上がっている。


そんな様子を眺めていた彩花に、そっと神崎が声をかけた。


「君も競技に興味が?」


「いやー、あたしはあの人の説明の熱量に引いちゃってさぁ。」


彩花は苦い表情を浮かべながら正直な感想を話す。その顔を見た神崎もははっ、と声を出して笑った。


「分かるよ!とても良い人なんだけどね。ちょっと熱が入りすぎる所があるよね。」


お?神崎も爽やかマッチョの見た目通り、普通な良い人っぽい感じじゃん。

……タイプじゃないけど。


心の中でそう呟きながら、彩花は神崎に話を聞くことにした。


「神崎さんは内山さんのトレーナーさん、なんだっけ?元々知り合いだったの?」


「違うよ。僕が蘭子さんの店にたまたま買い物に行ったのがきっかけでね。他の店員さんより随分体幹がしっかりしてそうで、何かスポーツしてたんですかって聞いたのが始まりだったんだ。」


はぁ〜ナンパね。


と口から出そうになったが彩花は慌てて飲み込む。


危ない!聞き込み中に喧嘩売るとこだったわ。そもそも喧嘩して勝てるような、生半可な筋肉じゃないよ!


ちゃんと飲み込んだあたしはえらい、と彩花は静かに己を褒め讃えた。


「彼女も一旦競技から離れていたそうなんだけど、またやりたいと思ってたみたいでね。僕も怪我をしてトレーナーに転向した直後だったし、彼女のサポートをすることにしたんだよ。」


「へぇ〜、そうだったんだ。」


彩花が危うく失言しかけた事など知らず、神崎は言葉を続けた。


つまりは、蘭子さんをナンパしたのは神崎さん。

んで、こうやって時々会う関係に至ったって事ね。


彩花は相槌を打ちながら、あまりにもざっくりとした理解をする。

鳴海が聞いていたら書類の束で叩かれていただろう。



「本当に彼女は素晴らしいよ。」


ふと、神崎が蘭子に視線を向けた。

その優しい眼差しに、もしかしたら、と彩花の直感が働いた。

次に来る言葉は重要かもしれない……、と。


彩花の内心を知る由もない神崎は、蘭子を見つめたまま誇らしそうに言い出した。


「復帰してそこまで経ってないのに、もう次々と大会に出場しては記録を出し始めてるんだ。」


「……ん?」


「高校から大学までやってただけあるね。社会人になって一旦離れたようだけど、メキメキと記録を伸ばしているよ。」


「……え?」


「次の大会では表彰圏内までいけるかもしれないね。」


「……え??」


神崎の口から浮気の証言が飛び出すものだと思っていた彩花は、思わず声を漏らした。

神崎の方と蘭子をキョロキョロと交互に見る。


大会?記録?表彰圏内?


浮気調査では出現しないであろう言葉の数々が並ぶ。


「トレーナーとしての初めての生徒が彼女だったことを、僕は嬉しく思うんだ。本当に感謝してるよ。」


あれ、これもしかして浮気じゃない……?


ここに来て浮気じゃない可能性が浮上してきた、と彩花は思い至り始めてきたのだった。

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