⑤
電車が到着し、蘭子と神崎という男は2人揃って乗り込んだ。
それを追うように4人も電車に乗り込む。
なるべくやり取りを確認できるよう、人混みをかき分けながら少しずつ2人の近くへと移動した。
「そういえば、旦那さんには切り出せたんですか?」
「それが…、まだ言い出せなくて。言わなきゃいけないなとは思うんですけど。どうしても踏ん切りがつかなくて。」
聞けば聞くほど…である。
彩花の頭の中では、この後事実を淡々と伝える無慈悲な鳴海と泣き崩れる内山の姿を想像して、慰めるシミュレーションまで開始していた。
立花も黒崎も何も言わない。お互い顔を見合わせて頷いている。
そんな中鳴海だけは、2人の様子を見て思案顔をしているのであった。
ー午前9時02分。
蘭子と神崎は揃って電車から降りた。
4人も素早く電車を降り、やや離れた位置から2人の後を追う。
少し離れた事で会話は聞き取りにくい。
しかし、笑ったり恥ずかしがったり、時には手帳を開いて悩む蘭子の姿は確認できる。
やはり2人の空気感はただの知人より、ずっと気安い間柄のように感じた。
「やはり…浮気の線が強そうな気はします。」
黒崎がぽつりと話す。
隣で彩花は首がもげてしまうほどの勢いで頷いていた。
「…まだ推測の域を出ない。」
鳴海は難しい顔をしながら言う。
「2人でどこかに向かってそうな気はするので、そのうち分かりそうな気はしますけどね。」
と、立花は2人から目を離さないまま小さな声で言う。
蘭子と神崎の後を、4人は一定の距離を保ったまま追っていくのだった。
ー午前9時13分。
徐々にあたりの景色は変わっていく。
飲食店や美容室、フィットネスクラブに学習塾…。
様々な看板が立ち並ぶ雑居ビルや、ドラッグストアにコンビニ。
ありふれた街並みだ。
蘭子と神崎は迷いなく足を進めていく。
既に目的地が決まっているかのようだ。
もっとも彩花はそんな事よりも、内山をどう慰めるかで頭がいっぱいだった。
やがて2人はとある建物の中に入っていった。
その姿を見た鳴海は足を止め、続けて立花と黒崎も止まる。
「ここって…」
と小さく立花が呟く。
黒崎も不思議そうな顔をして建物を見つめている。
しかし、内山への慰めシーン第4パターンをシミュレーションしていた彩花だけは、前が止まったことに気付きもしなかった。
「んぶっ!」
前にいた鳴海の背中に衝突し、短い悲鳴を上げる。
僅かに体勢を崩した鳴海が振り返り、互いに目が合った。
「もう…急に止まんないでよ鳴海ー。」
と、彩花は非難の声を上げる。
鳴海の視線がビシビシと刺さるが、それよりもぶつかった鼻の方が痛かった。




