④
ー午前8時29分。
動きがあったのは、集合してから1時間半が経とうかというところだった。
「…所長。玄関から蘭子さんと思われる人が出てきました。」
内山宅を見張っていた立花の声に、そろそろ二度寝決め込んじゃおうかな〜、と考えていた彩花の意識が現実に引き戻される。
玄関から出てきた人物を見た彩花は驚いた。
「奥さんの見た目、内山さんが愛ゆえのひいき目で盛ってるとこあるでしょ、って思ってた。まじで綺麗な人出てくるのビビるわ…。」
高身長でサラサラとした黒髪のストレート。その髪を緩く、オシャレにまとめている。整った顔立ちだが近寄り難さを感じさせないメイク。そしてプロポーション…。
…彩花は己の両胸にそっと手を乗せた。
静かに絶望している彩花の事を誰も見ていない。
そんな事よりも彼らが気になったのは服装であった。
「バルーン袖のブラウスにスカート…。確かに可愛らしい服を着ていますね。」
黒崎は蘭子の服を見る。内山が言っていた通りの服装なのだ。思わず立花と黒崎は目を見合わせる。
「調査開始だ。」
鳴海は蘭子を見失わないよう、目を離さずに小さく全員に声をかける。
そして素早く立ち上がると、物音を立てないようゆっくりと歩き出した。
立花、黒崎が後に続く。
彩花も我に返り、慌てて3人の後を追うのだった。
ー午前8時45分。
蘭子の後を追うこと15分程。最寄りの駅へと到着した。
平日ということもあり、駅構内もそれなりに混雑している。
「はぐれたら置いていくからな。」
何故か彩花にだけ言う鳴海に、立花も黒崎も小さく笑い声が漏れた。
「子供じゃないんだからはぐれないわよ!」
と憤慨しながら彩花は言う。
つい数ヶ月前。
迷い猫探しをしていたらいつの間にか皆とはぐれてしまい、猫を見つけるよりも時間がかかってしまった…。
そんな記憶が彩花の脳裏を過ぎったが、無視をすることにした。
ホームに到着し少し離れたところで蘭子の様子を伺う4人。
蘭子はちらりとホームの時計を確認すると、バッグから文庫本を取り出し読み始めた。
「うわぁ〜、電車の待ち時間に読書?完璧な人過ぎていっそ清々しい…。」
「服装こそ気になりますが、まだ特に何もありませんね。」
彩花と黒崎がそんな会話をした直後であった。
「やぁ、蘭子さん!」
男性の声だ。
彩花は反射的に声がした方に首を向けようとしたが、鳴海に頭を掴まれ動かせない。
「怪しい動きをするな。」
何故あたしが見ようとしたのバレたのよ…。エスパーかよ…。
と彩花は目で訴えたが、鳴海は構わず指示を出す。
「ゆっくり視線だけ向けろ。」
諦めて彩花は蘭子と男の様子を確認することにした。
男は30歳半ばから後半なように見える。
かなり筋肉質で、スラリとして知的そうな内山さんとはかなり対照的っぽい感じ。
個人的にここまで筋肉がついてるのはタイプじゃないな〜。
やっぱりあたしは細マッチョ派。
などと考えている彩花の耳に2人の会話がふと聞こえてきた。
「神崎さんこんにちは。」
「蘭子さん、今日も来て頂けたんですね!とても嬉しいです。」
「いえいえ。少し早かったかしら?」
「そんなことは無いですよ!」
彩花も全て聞こえたわけではない。
わけではないのだが、どう考えても深い仲であるような会話にしか聞こえない。
思わず鳴海の上着を引っ張りながら彩花は言った。
「鳴海、可哀想だけどどう考えてももう浮気で決定だよぉ…。」




