③
ー昼12時16分。
内山が帰り、静かな鳴海探偵事務所。
真っ先に静寂を破ったのは彩花だった。
「ねぇどう考えても浮気じゃん」
「決めつけるな」
彩花は鳴海の席から立ち上がるなり、応接ソファへ移動し、ぼふっと身を投げ出す。
眉間に皺を寄せた鳴海に
「静かに座れ」
と言われたが聞こえない事にした。
「所長、俺もクロかと思います」
「まだ証拠はない」
「私見ていて可哀想になってしまって…」
「私情を挟むな」
立花も浮気を疑っている。黒崎は浮かない顔をして内山の心配をしているようだった。
「明日はどう動きますか?」
立花は自席から応接ソファに移動した。彩花の隣にゆっくりと腰掛けながら問う。
「内山さんのお宅に向かって、蘭子さんが出てくるのを待ち尾行…というような感じでしょうか。」
黒崎もそう話しながらふんわりと彩花の隣に腰掛けた。
大きなソファではあるが、流石に楽な体勢のままだと左右の2人に邪魔になってしまう。
「しょうがないなぁもう…。」
と彩花も苦笑しながら姿勢を正した。
「そうだ。内山の出勤時間に合わせて自宅前に張り込み、調査対象を確認次第尾行でいいだろう。」
「じゃあじゃあ!先頭はあたしで…」
「お前はここの誰よりも顔が広いからバレる。最後尾だ。」
鳴海と彩花のやり取りを聞いていた立花が、くすりと笑った。
「彩花さんは尾行に1番向かないじゃないですかー。ここら近所みんな友達みたいな感じなのに。」
つられて黒崎もふふっと笑う。
「集合は明朝7時。」
「えぇー!まだ2度寝しようとしてる時間だよ!」
「お前は堕落しすぎだ。」
鳴海はこめかみを押さえながら言う。
先程の重い空気が嘘のような作戦会議であった。
6月2日
ー午前7時05分。
「…おはよぉ」
彩花がまだ眠そうな声と共に、集合場所である内山宅周辺に到着した。ヘアセットする時間も無かったのか、下ろしっぱなしのセミロングの髪は寝癖でうねっている。
「彩花さんおはよう。時間がある時に髪直してあげるわね。」
小さく笑いながら黒崎がそう話す。
お願い〜、と目を擦りながらいう彩花に、黒崎がまた笑う。2人のやり取りはまるで姉妹のようだ。
「…5分の遅刻だ。」
鳴海は呆れ顔で言う。
ただし遅刻は想定の範囲内だったのだろう。それ以上のお小言を言うことは無かった。
「まだ蘭子さんが出てきたわけじゃないですし、いいんじゃないですか?」
軽口を言う立花を鳴海はジロッと睨み、返事の代わりに小さな溜息をついた。
「ところで朝食は済ませ…ている訳がないな、その寝癖で。」
彩花の方を向きながら鳴海は言う。
そしておもむろに上着のポケットへ手を突っ込み、何かを手にするとそれを彩花めがけて投げ渡した。
うわわ、と彩花は声を上げながらキャッチし投げ渡されたものを見る。
…コンビニのおにぎりだ。しかもツナマヨ。あたしの1番好きなおにぎり!
「それしかない。だが空腹よりはましだろう。」
と鳴海がぶっきらぼうに言う。
「きゃあああ!神様仏様鳴海さま〜ありがたや〜!!」
「静かにしろ」
手を合わせて拝む彩花に鳴海は頭を抱えるのだった。




