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鳴海探偵事務所へようこそ  作者: デン
夕暮れと忘れもの
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17/19

公園の向かいの空き地へ着いたところで、彩花が突然足を止めた。

そして急に空き地の前でキョロキョロと周りを見回すと、首を傾げながら


「ん?」


と声を漏らした。


引きずられるように連れてこられた黒崎も、突然彩花が止まったことで体勢を崩し転びそうになる。

それでも何とか持ち堪えて、呼吸を整えると彩花に話しかけた。


「彩花さん。どうしたんですか?」


不思議そうな表情で彩花を見た。

だが彩花は空き地から視線を外さずに、そのまま黒崎へ返事を返した。


「なんかさー、公園で見た時よりちょっと雰囲気が違う気がするんだよね。」


そう言いながら彩花は改めて目の前の空き地を見る。


腰の高さまで伸びる雑草。一部は彩花の顔の位置にまで及ぶものもあるくらいだ。

空き地の奥には1本だけ木が生えている。それもなかなかの大きさである。


この場所は手入れがされなくなって、長い時間が経っているのだけは何となく分かった。


でも何故だか。

理由はよく分からない。


この場所って他の場所とは違うかも。


彩花にはそんな気がしたのだった。



彩花はふう、と一呼吸した。

パンっと両頬を手のひらで叩き、そして意を決したように空き地を見据える。


「……あたし、ちょっと調べてくるわ!」


黒崎の方をちらりとだけ向くと、黒崎の返事も待たずにずんずんと草を掻き分けて進み始めた。


黒崎はさすがについて行くの躊躇ってしまった。

目の前にはかなり背の高い、しかも鬱蒼と生い茂る雑草。明らかに手入れがされていない土地……。


「彩花さん、待って下さい!」


と、声を掛けるが全く止まる様子はない。

このままついて行くべきか悩んでいる黒崎のところへ、2人を追いかけてきた立花と鳴海が合流した。


「あいつはどうして何も考えずに突っ込んでいくんだ……。」


鳴海が深いため息とともに、そう呟く。

そして黒崎に向き直ると


「あいつ、何か言ってなかったか。」


そう質問した。

少し遠目ではあったが、彩花が突然止まり黒崎に何か話している姿を見た鳴海は、少し違和感を覚えたのだ。


「彩花さんは、公園で見た時と雰囲気が違うと話していました。」


黒崎がそう言うと、立花は空き地全体を見回した。

だが、公園から見た時と同様荒れ放題の空き地にしか見えない。


「彩花さんの野生の勘ってやつですかね?」


と冗談めかして立花は言う。

鳴海はほんの僅かに考えるような仕草を見せたあと、


「そうか。」


とだけ返した。

ひとまずこれ以上彩花と離れるべきではない、と判断した鳴海は指示を出す。


「あいつを追う。」


鳴海はそう言うと、彩花の通った跡に沿って進み始めた。


「うげぇ〜。所長、俺嫌なんだけど〜。」


と明らかに嫌そうな声を出しながら、渋々立花もついて行く。

鳴海が行くと言えば行くしかないのである。

そして鳴海と立花の後ろを、黒崎が足元に気をつけながらついて行く事になった。




彩花は他の3人の事などこれっぽっちも考えず、ただひたすら進んでいた。


しゃく、しゃく……と湿った草を踏む音が聞こえてくる。草を踏みつける度、鼻に青臭い香りが広がっていった。

このような空き地だからか、ポイ捨てされたであろうゴミが時々目につく。

たまにカラン、と足に空き缶が当たる時もあった。


進めば進むほど背の高い雑草が増えてきた。

視界が遮られ、そしてたまに顔にぶつかる。


彩花はそれでも気にせず進んでいた。

何故か進む方向に何かありそうな気がしていた。


だが、ふと


「……なんか遠くね?」


我に返ったように彩花が呟いた。

感覚的には、もうそろそろ空き地の奥に辿り着くつもりでいた。しかし、空き地の奥に生えていた木がまだ少し先に見える。

どう考えてもまだ空き地の中央あたりだ。


……こんだけ歩いてまだ真ん中?


と疑問が頭に浮かんでは来たが、


「まぁ、いっか!」


気のせいだと思うことにした彩花は、また足を進めようとした。


その瞬間だった。


「少しは考えてから行動しろ。」


後ろから不機嫌そうな鳴海の声がした。しかも明らかに声が低い。

振り返ると、眉間に皺を寄せていつもの3倍仏頂面になっている鳴海がいた。

後ろには嫌そうな顔をした立花と、心配そうにこちらを見る黒崎もいる。


「あれー、みんなもう来たの?」


驚いたように彩花が言う。


「お前な……」


と鳴海がこめかみを押さえ、なにか言おうとしたが


「どうしたもこうしたも!変な事が起きたあとだし単独行動は危ないってー。俺はついて行くのめちゃくちゃ嫌でしたよ、こんな場所……。」


鳴海より先に、立花がそう言った。

およよよ……、と泣き真似をしながら言っているが、少し心配が滲んだような声色だった。


「そんなに時間を置かずに彩花さんを追いかけたつもりだったんですけど、なかなか追いつけなくて。みんなで心配していたんです。」


黒崎が続けて言う。

明らかにホッとしたような表情をしていた。


「そうだったんだ……。」


彩花は3人に視線を向けながら呟くように言った。


「何はともあれ、彩花さんと無事合流出来て良かったって事!」


立花は笑いながらそう言った。

彩花と黒崎がつられて笑う。


そんな中鳴海は1人、周りを見回していた。

現在地、先にある木の位置、そして後ろを振り返りこれまで歩いてきた道。

そして小さく眉をひそめ、考え込む。


それに気付いた彩花が心配そうに鳴海に声を掛けた。


「どうしたの?……もしかしてトイレ?」


彩花は本気である。


「……。」


数秒の沈黙。

立花の吹き出しそうな声と、黒崎の堪えるような笑いが聞こえる。

鳴海は今日一番の大きいため息を吐いた。

そのまま彩花の方へ鋭い視線を向け、おもむろに彩花へ近付くと


「……いったぁ!!」


痛烈な一撃を額に放ったのだった。


痛みに思わずしゃがみ込んだ彩花だったが、鳴海はお構い無しにもう一度だけ周りを見回した。そして、


「このまま先へ進む。」


鳴海は短くそう伝えた。

足元では強烈なデコピンを食らった彩花が、額を擦りながら


「暴力反対!顔面だって暴力的にいい癖に!鳴海の鬼ー、意地悪ー!」


と意味不明な抗議をしているが鳴海は無視をする。


「先頭は俺が行く。立花と黒崎は俺の後ろだ。」


そう言いながら、鳴海はまだ抗議をしている彩花に視線を向ける。

そして小さくため息を吐くと、


「静かにしろ。」


そう言って彩花を片手でがっしりと捕まえた。


「ぐぇ!」


と彩花の口から可愛げのない声が漏れる。

その声に思わず立花が吹き出した。

鳴海は構わずそのまま彩花を引きずるように歩き出す。


「きぃー!人をペットみたいにー!」


と、今だにやいのやいの騒ぐ彩花だが、鳴海の腕力は意外にもあるようで逃げ出せない。

そのまま引きずられていく彩花の姿を眺めながら、立花と黒崎は笑いを堪えてついて行った。



鳴海に引きずられながら進む彩花だったが、先程とは違いスムーズに進んでいく感覚に違和感を感じていた。


あれだけ進んでも一向に木との距離が近付かなかったのに、今度はあっさり距離が縮まっている気がする。


「あれ?」


と首を傾げながら小さく呟く彩花。

その呟きに気付いた鳴海は、彩花に視線を向けると


「その違和感、覚えておけ。」


とだけ話し、また視線を前へ戻すと先へと進んでいった。



全員が合流してからものの数分。

空き地に踏み入れる前から見えていた、それなりに立派な木の近くまで、4人はあっという間にたどり着いてしまった。


鳴海は道のりを確認するように、一度だけ後ろを振り返った。

少しの間振り返っていたが、ただ何も言わずにまた視線を前へと戻した。


「意外にあっさり着きましたね所長。」


立花もやや拍子抜けしたような声で鳴海に声を掛けた。


「それにしても、ここは一体……。」


と、黒崎が困惑したような声を出した。


不思議なことに、この木の周囲だけは雑草はおろか落ち葉ひとつ落ちていないのだ。

外側から見た時は、全くそのようには見えなかった。


そして木の根元には石造りの古びた祠がぽつんと建っていた。

所々苔むしていて、屋根の一部はかけてしまっている。

長い間手入れがされていないのが見て取れた。


その祠の目の前に、三毛猫が1匹寝転がっていた。

木から降り注ぐ木漏れ日を浴びて、気持ちよさそうに眠っているようだ。


鳴海は先程までの道のりを思い返す。

そして視線を巡らせる。


木の周囲。

古びた祠。

眠っている三毛猫……。


警戒するような目付きのまま、3人に声を掛けようと口を開いた。


その時だった。


「あー!あれ、あたしの甘酒!」


捕まえていた彩花が突然大声を出した。

彩花がじたばたしながら必死に指を差す。


祠の後ろに、透明なコップがあった。


鳴海たちが公園で腰掛けながら飲んでいた、あの甘酒の容器と全く同じものが、そこに置いてあった。

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