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鳴海探偵事務所へようこそ  作者: デン
夕暮れと忘れもの
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16/19

ー午後1時14分。


4人は商店街の少し外れに移動した。

商店街は活気に溢れていたが、少し外れるだけで空き家や空き地がぽつぽつと見受けられる。



「ねぇあそこでちょっと休憩タイムにしよう!」


彩花がやや広い空き地を指差した。

支柱だけ残して壊れているブランコの跡や錆び付いた鉄棒だけがあり、おそらく以前は公園だったのだろう。

傷んではいるが、小さな東屋のようなスペースがあり、それを彩花は目敏く見つけたようだった。


「急げ黒崎!紫外線はお肌の敵だよ!」


と黒崎に声を掛けながらズンズンとベンチへ進んでいく。

普段紫外線なんか気にした素振りもなかったような、と黒崎は思いつつ、ふふっと笑うと、


「彩花さん!待ってください。」


甘酒が溢れないように気を付けながら、彩花の後を追った。


「……なんでお前が仕切るんだ。」


というため息混じりの鳴海の言葉は隣にいた立花にしか届かなかったようだ。


「まぁ所長。ちょうどいい場所を彩花さんが見つけてくれたわけですし?座りながら情報整理しましょうよ。あと早く貰った甘酒飲みたいです。」


立花は笑いながらそう言うと、彩花と黒崎の後に続く。

鳴海はそんな3人を呆れながら見つめたあと、諦めたようについて行くのだった。



ベンチに腰をかけて彩花たちは一息ついた。

今日もやはり湿度で蒸し暑いが、日陰になっているお陰で周りより少し涼しい。風が通り抜けるとより一層涼しさを感じさせた。


立花がずずっと冷やし甘酒を1口飲む。


「うまっ!」


と、思わず感動の声を上げた。


「しょうが効いててまじで美味いの。黒崎さんも早く飲んでみ?」


甘酒の味に感動した立花が、急かすように隣にいた黒崎にそう言った。

その言葉に黒崎も1口飲む。


「本当です!とても美味しいですね。」


と、立花の方へ向き直り笑顔で言った。

そんな2人の様子を見てから鳴海も、ゆっくりと甘酒を飲み始めたのだった。



「んじゃ、ここで一旦整理しましょっか。」


甘酒を一気に半分ほど飲んでから、立花がそう切り出した。


「やっぱり商店街の至るところで起きている。ただし、現時点では彩花さんが聞いてきた以上の被害は無さそうってところですね。そして新たに分かったことが2つ。」


「皆さんが鈴の音を聞いている事、そして酒屋のお客様がバッグを引っ張られたような感覚があった……という点ですね。」


黒崎が立花の言葉のあとに続く。


「改めておじさんとかおばちゃんの話聞いてみて思ったんだけどさー。例えば盗られる瞬間を見た、とか人影見た、って2人とも言ってないんだよね。」


彩花はふと思った事を口に出した。


……おじさんもおばちゃんも、人影を見てない。

んで、おじちゃんは近所の子どもにも聞いてくれてた。でも違うって話だった。

てことは、やっぱり……。


三角巾白装束で長髪の女性、という典型的な幽霊の姿を頭に思い浮かべて、ひとり顔を青くする彩花。


鳴海はそんな彩花に視線だけちらりと向けた。そしてふっ、とごく小さく笑った。


鳴海にしては珍しいことであったが、立花がちょうど同じタイミングでずずーっと勢いよく甘酒を飲み、その音にかき消され誰も気付けなかった。


「まだ2人の証言だけだ。」


鳴海は3人に向かって言った。


「肉屋も酒屋も防犯カメラは設置されていなかった。ただし商店街にはいくつか設置されているのを確認している。次は防犯カメラの確認と聞き込み、二手に分かれる。」


そしてそのようにまとめると、また静かに甘酒を飲み始めたのだった。



話がまとまり、立花は真っ先に甘酒を飲み干した。

が、ふと彩花の甘酒が全く減ってない事に気付いた。


「あれ、彩花さん全く飲んでないじゃないですか。」


その言葉に彩花は苦笑する。


「実はさぁ、甘酒苦手なの……。味はね、まぁそこまでではないんだけど。匂いがダメで……。」


「へぇー!彩花さんにも苦手な食べ物、まぁ飲み物だけど……。そういうのあるんだね。」


事務所内ではなんでも美味しそうに食べてる姿しか見たことがないため、彩花から出た言葉に立花は驚いたように返した。


「苦手なんだけどさー、断れなくて。……この4人だけの秘密だぞ!」


最後はおどけたように言った彩花。

意外だな、というように鳴海も彩花の方をじっと見る。ちょうどそのタイミングで彩花と目が合った。


彩花がニンマリと微笑む。


……嫌な予感がして鳴海がサッと目を逸らした。


が、遅かったようだ。

彩花は鳴海にぐい、と近付くとじっと鳴海を見つめ始めた。


「鳴海ってさ、甘酒だーい好きみたいな顔してるよね。」


「……。」


「もはや甘酒みたいな顔してる。」


「……。」


甘酒のような顔とは一体。

立花も黒崎も思ったが、あえて触れないことにした。


「なんか腹立つ。」


「……。」


「けっ、顔がいいな鳴海は!」


「……何故俺は罵られてるんだ。」


立花と黒崎は笑いを堪えるのに必死だった。

鳴海は2人を睨みつけるが、助け船を出す気はさらさら無いようだ。


「そんな顔面強者の鳴海には、彩花ちゃんの甘酒をプレゼントします!持ってけドロボー!」


ニコニコと笑顔で威勢よく言う彩花。

そんな目の前の彩花に鳴海は額を押さえた。

立花もとうとう笑いを堪えられず、声を上げながら笑う。

黒崎もふふ、と口元を抑えて微笑んでいた。



そんな4人の耳に、


……りん


と鈴の音が響く。



先程の和やかな空気が一変した。

全員が一斉に周りを見回す。

が、人影らしきものは見当たらない。


そもそもここに来てから今まで、この公園の近くを通り過ぎる人など見ていないのだ。


「いま、のは……。」


と、立花が呟くような声で言った。

その言葉の直後だった。


「あたしの甘酒がない!」


突然響いた彩花の声に3人が一斉に振り返った。

そして彩花が座っていた場所の方に視線を向ける。

すると、確かに先程までそこに置いてあったはずの甘酒が、コップの形の水滴跡だけを残し消え去っていたのだ。



あまりにも突然で、そして不可思議な出来事にほんの一瞬だけ鳴海が表情を崩した。

が、すぐいつもの表情に戻ると


「1度周囲を確認する。」


冷静に指示を出す。

その言葉に立花が即座に短く返事をした。

そしてベンチの前にしゃがみこみ、痕跡を探し始めた。


驚きのあまりに口をパクパクとさせている彩花に、黒崎はそっと寄り添いながら質問をした。


「彩花さん自身には何も無かったですか?例えば、引っ張られる感覚があったとか。」


彩花は首を横に振る。


「そうですか。何より彩花さんに怪我がないようで良かったです。」


と、黒崎は落ち着かせるように彩花の背中をしばらく撫でていた。



背中に伝わる温かい黒崎の手の感覚に、彩花は少し冷静さを取り戻すことができた。

そして周りを見回す余裕が出来たことで、ふと視線の先の違和感に気付いた。


この公園の道を挟んだ向かい、背の高い雑草が鬱蒼と生い茂る空き地。


そこの草が揺れ動いている。

しかし、吹いている風の向きとは明らかに違う動きをしているのだ。


まるで今何かがそこを通り過ぎているような、そんな風に彩花には見えた。


「ねぇ、あそこなんか変だよ。」


彩花は向かいの空き地を指差した。

背中を擦る手を止めた黒崎がそちらを見たが、ピンと来ていない表情をしていた。


「黒崎あのね、あたしの勘があそこに何かありそうって言ってる。」


空き地から視線を外さずに、黒崎へそう伝える。

そして急に向きを変えたかと思うと、


「鳴海、立花!あたし達ちょっと見てくるねー。」


言うや否や彩花は走り出した。

黒崎は慌てて止めようとしたが、止めきれず半ば引きずられるように彩花について行く。


鳴海は彩花の声に振り返った。

そして眉間に皺を寄せ、頭を抱えた。

今この状況で二手に分かれてしまうのは得策ではない、と判断した鳴海はため息を吐きながら立花に声をかけた。


「……立花、あれの後を追う。」


立花も視線を上げて彩花の方を見た。

そして、ははっ、と苦笑しながら


「了解です、所長。」


と言いながら彩花たちを追いかけるのだった。

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