③
昼食がまだだったこともあり、あっという間にコロッケを食べ終えた4人は酒屋へ向かった。
彩花は商店街の人たちと本当に仲が良いようだ。
途中で何度も店の中から大きな声で話しかけられ、手を振り返す場面に幾度も遭遇した。
「彩花さんは本当に人気者ですね。」
「まぁ可愛いからね!」
「確かに、その元気でふてぶてしい感じがとっても可愛いと思うよ。」
「それ全く褒めてないんだけど!」
黒崎と彩花のやりとりに立花が茶化す。
聞き込みに来たとは思えない、そんなゆるい雰囲気に
「調査に来たことを忘れるな。」
眉間に皺を寄せた鳴海からお小言を貰うのだった。
ー昼12時50分。
コロッケを食べたり雑談をしながらではあったが、肉屋から比較的近場にあったこともあり、4人はすぐに酒屋へ到着した。
店の前でおばちゃんが威勢のいい声とともに甘酒の販売をしている、こじんまりとした昔ながらの酒屋だ。
今も行き交う人達に向けて声を張りながら、商売をしている最中だ。
「おばちゃーん、来たよー!」
客の捌けるタイミングを待って、彩花が声を掛ける。
その声に、酒屋のおばちゃんは甘酒の鍋をかき混ぜる手を止めて、ぱっと視線をこちらに向けた。
「彩花ちゃんじゃないか!それに鳴海さんたちまで……。もう話してくれたのかい!」
驚いた様子でおばちゃんは言う。
「早い方がいいと思ってさー。早速連れてきたよ!」
少し得意顔で彩花はそう返事をした。
半ば無理やり巻き込んでおいて得意顔をしている彩花に、鳴海は短くため息を吐いた。
そして改めて酒屋のおばちゃんに視線を戻し、
「話は聞きました。改めて伺えますか。」
と、肉屋の時同様に話を聞き始めた。
「あん時のことはよく覚えてるよ、本当に驚いたからねぇ。」
と、おばちゃんが話し始めた。
「午前中に来たお客に試飲用の酒を渡してたんだよ。ただうっかり1つ分多く紙コップに入れちまってね。脇に避けておいたんだ。その後お客も帰って、酒を片付けようと思ったら紙コップがないわけさ。最初はお客が飲んじまったんだと思ってね、さして気にしなかったんだけど。ただ、その日の午後も同じようなことがあったんだよ。」
その時のことを思い出してか、不思議そうな顔をしておばちゃんが続ける。
「5、6人のグループで来たお客でね。人数分だけ試飲用に酒を紙コップに入れておいたんだ。もちろん間違いなく入れたよ。そん時かな、お客の1人がバッグを突然落としちまってね。みんながみんな、驚いて一瞬そっちを見たのさ。で、視線を酒に戻したらどういうわけか試飲用のコップが1つ減ってるんだよ。」
話を聞きながら、立花と黒崎が思わず目を合わせた。
彩花から話はざっくりと聞いていたが、本当に摩訶不思議なことがこの商店街で起きているようだった。
「甘酒も同じでね。いつも、すぐお客に渡せるようにいくつかカウンターに準備しておくんだよ。だけど気が付いたら1つ甘酒が減っててね。」
ただ、酒屋のおばちゃんはなんて事ないといった風に笑いながら、
「まぁ大した被害じゃないからいいか、とは思っちゃいたんだけどね。でも嬉しいよ。彩花ちゃんがこうやって気にかけて来てくれてさ!」
彩花の頭をわしゃわしゃと撫で回しながら言った。
「おばちゃんやめてよー!」
と嫌がる素振りを見せる彩花だが、その声はどことなく嬉しそうだ。
そんなやり取りに黒崎がふふっ、と小さい声で笑った。
「それよりも!」
彩花は頭を撫で回すおばちゃんの手を掴み、声を張った。
「おばちゃんは気になることとかなかったの?そういえば肉屋のおじさんは鈴の音がー、とか言ってたけど。」
「そうだよ、鈴の音!」
彩花の言葉に被せるように酒屋のおばちゃんは言った。
「試飲用の酒が無くなった時も、甘酒が無くなった時も、鈴の音が聞こえたんだよ!嘘だと思われるかもしれないけどね。でも商品が無くなった商店街の人たちに聞くと、みんな同じように言うんだ。」
肉屋のおじさんも聞いた鈴の音。商店街歩いてきたけど、風鈴が飾ってあるお店なんてそんなになかったし……。まじでどういう事?
改めて聞くおばちゃんの言葉に、朝1度聞いていたはずの彩花も考え込んでしまった。
「同様の被害にあった店舗を他にご存知ですか。」
そんな中、静かに話を聞いていた鳴海がそう切り出した。
「いんや。彩花ちゃんに話した店舗以外は、まだ被害に遭ってないと思うよ。そんなのがあればすぐ商店街中に話が広がるからね。」
「鈴の音以外に気になったことはないですか。」
「……あぁ、そういえば。バッグを落としちまったお客が『急にバッグが引っ張られたような感覚があって落とした』って感じのこと言ってたような。」
鈴の音、バッグを引っ張る感覚……。
お、おば……。おば……け?
いや、いやいやいやいやいや……。
そそそそ、そんな……。
瞬間、彩花の背中に冷たいものが走ったような気がした。
鳴海はまた考え込むような素振りを見せた。
そして自分の中で情報を整理し終えたのか、酒屋のおばちゃんに視線を向けると、
「有力な情報、ありがとうございました。」
と、礼を述べた。
「気にしないでよ、むしろこっちが感謝したいくらいなんだからさ!毎回毎回、迷い猫やら落し物やら、ちっちゃな事でいつもあんたらに助けて貰ってて悪いわね。……あ、ちょっと待ってな。」
酒屋のおばちゃんがそう言うと、氷が入ったコップに甘酒を注ぎ、ストローを差して4つ手渡してくれた。
ほんの少ししょうがが入った、キリッとした冷たさの冷やし甘酒だ。
「大したもんじゃないけど、これ飲んで頑張っておくれ!」
梅雨時期の空気も吹き飛ぶような、カラッとした笑顔でおばちゃんは言う。
彩花たちはありがたく甘酒を受け取った。
今日も蒸し蒸しとした暑さだったが、手から伝わるコップの冷たさだけで少し暑さがマシになったような気がした。
「1度情報整理をする。」
鳴海はそう言うと、踵を返した。
「はーい。」
と立花が軽く返事をし、鳴海に続く。
黒崎が酒屋のおばちゃんに微笑みながら一礼し、2人に続いた。
「おばちゃんまたねー!」
と彩花も手を振りみんなを追いかけていく。
……りん。
と、鈴の音のような音が彩花の耳元で聞こえた気がした。




