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鳴海探偵事務所へようこそ  作者: デン
怪しい妻と謎の男
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11/19

6月9日


最初の尾行から1週間。

彩花は暇を持て余していた。


最初の3日で観たいDVDを全て観尽くした。


次は事務所内の大掃除もした。書類を触るわけにもいかないため、主に窓拭きや床掃除に壁掃除だったわけだが、黒崎と立花にそれはそれはとても喜ばれた。

が、2日もすれば飽きてしまった。


ピカピカな事務所でやる数独は、さぞ気持ちよく捗るであろう、と意気込んで次は数独を大量に持ってきた。

しかし結局は紙しか見ないため、ピカピカな事務所かどうかはさして関係ないことに気付いた。



そして今日。


やるとこ無くなった……。


そう思った彩花だったが、自宅を出る直前だった。


ーー天啓が降りてきた。


急いで部屋に戻り、押し入れから長いこと眠っていたトレーニングマットを引っ張り出してくる。

その昔、ダイエットしようと意気込んでネット注文し、数回だけ使用したものだ。


事務所に着いた彩花は、鳴海と立花がいないことをちゃんと確認した後、応接テーブルとソファをずりずり引きずり出した。

そして空いたスペースにバサッとマットを広げると、


「黒崎見てて。あたし蘭子さんみたいなパーフェクトボディ目指すから!」


と言いながら動画サイトを開き筋トレを始める。


……ふん!ふん!


と時々聞こえる彩花の勇ましい息遣いに、黒崎も思わず笑ってしまった。



30分程頑張っていたが、


「ひぃ〜。ちょっと休憩……。」


とトレーニングマットに寝そべったのが運の尽きだった。

気付けば動画視聴が延々と続き、昼食の時間も過ぎていたのだった。



ー午後4時12分。


黒崎と昼食を済ませ、おなかも少し落ち着いた頃。

ふと思い立った彩花は、


「筋トレだけじゃなくて柔軟性も必要だよね!」


とヨガを始めた。もちろん続かず午前中と同じ末路を辿っている。そんな時だ。


チリン……


ドアベルが鳴る。続いて、


「ただいまー。……って彩花さん何してんの?」


と立花の声が事務所に響いた。


彩花の背中に嫌な汗が伝う。立花が帰ってきたということはすなわち鳴海が帰ってきたという事だ。


ゆっくり、ゆっくり後ろを振り返る。


……恐ろしい形相の鳴海が見えた。



「ごごごごめんなさーい!」


と滑り込むように鳴海の前に出ると、彩花は華麗な土下座を決めた。

その姿に立花は声を上げて笑い出す。

黒崎もつられて笑う。


「今すぐ片付けろ。」


と眉間に皺を寄せながら鳴海はそれだけ言うと、荷物を置きに自分の席へ向かうのだった。



ー午後4時20分。


所定の位置にテーブルとソファが戻され、それぞれ全員が所定の位置に座る。

額を擦りながら、デコピンまでする事ないのに、と彩花が小さく呟いたが、鳴海は無視をして話を始めた。


「今日までの間に怪しいところは全く見つからなかった。」


鳴海の後に立花も続ける。


「どうやら最寄り駅が同じなようで、ジムまで一緒に行く事がほとんどでした。が、その後ジムを出てから2人が一緒に行動することはありませんでした。」


「そうなんだねー!」


と彩花は声を出す。


「んで、今日までの尾行の結果と周辺の聞き込みの情報をまとめてみると……。」


そう言いながら立花はソファから立ち、自席の近くにあるホワイトボードを引っ張ってきて記入し始めた。



・蘭子さん

パワーリフティングのアマチュア選手

1度離れたが神崎のサポートにて現在は復帰

筋肉を隠すために服装を変えた

仕事の後は30分だけジムorまっすぐ自宅

ジム後はスーパーに買い物し帰宅


・神崎さん

蘭子さんのトレーナー

トレーナーと選手の域を出ない

ジム内でマシンメンテやジム会員のサポートをする姿あり

ジム後蘭子と行動している姿は無し

妻子持ち

子供と公園に行く姿を確認



立花がひと通り書き終えたところで彩花が驚きの声を上げる。


「え、神崎さん既婚者だったの!指輪してるようには見えなかったよ!」


「仕事柄外している人もよくいますしね。トレーニング器具に傷をつけたくない、とかそんな感じなのかもね。」


立花がペンを置きながら言う。


「そっかぁ……。良かった。」


彩花はソファの背もたれに身体を預けながら呟いた。


最初は浮気以外の何物でもないと思っていた。

だがホワイトボードに並べられた情報は、それを否定するものばかりだ。


鳴海もゆっくりとホワイトボードを眺めた。

数秒、沈黙する。そして一呼吸置いた後、


「今回は白とみていいだろう。」


静かにそう結論付けた。

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