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鳴海探偵事務所へようこそ  作者: デン
怪しい妻と謎の男
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10/19

ー午前10時50分。


「お待たせしました。」


店員がテーブルの上に、ホットコーヒー2つとフルーツパフェを置く。

彩花が、ありがとー!と返事をすると、早速スプーンいっぱいにパフェを掬って頬張り始めた。

口の中に広がる甘さ……。さっきの怒りは綺麗に消え失せていた。

幸せそうな彩花の様子に黒崎も笑いながら、コーヒーに口をつける。



「ほーら、鳴海このさくらんぼ食べたい?ダメだよー!」


と彩花が鳴海を煽りながらパフェを堪能していると、


「それで?どうでした、様子は。」


立花は2人に問いかけてきた。


「概ね得たい情報は得られたかと思います。」


コーヒーを1度置き、黒崎は言う。


「あたしもめっちゃ極秘情報聞いてきたんだけどさー!」


口の中のものを急いで飲み込むと、彩花も続く。

そのままの勢いで全てを話してしまいそうな彩花に、鳴海は待ったをかけた。


「聞けた、という事実だけで今はいい。詳しい話はあとだ。」


「え、聞きたくないの?」


「TPOを弁えろ。」


不満そうな顔の彩花の様子に、鳴海は思わずこめかみを押さえた。

そんな2人の様子を見てぷっ、と吹き出す立花。

思わずふふっ、と笑う黒崎。


少しの間だけ尾行中とは思えない、穏やかな空気が流れた。



「さて……。これからまた分かれて行動、でいいですかね所長。」


彩花のパフェがあと数口で食べ終わりそうな頃を見計らい、立花が話し始めた。

鳴海は頷き、黒崎も理解したような顔をしているが、彩花だけは1人分かっていなさそうな顔をしている。


「黒崎とお前は、既に蘭子と神崎に顔が割れている。このまま尾行すると勘付かれる可能性が高い。」


鳴海は彩花にそう言うと、視線を向けたまま話を続けた。


「だから俺と立花で尾行する。お前は黒崎と事務所で聞き込み情報の整理だ。」


「あー……、まぁそっか確かにねぇ。」


と答えた彩花だったが、その声色から尾行続けたかったなぁ、という思いがだだ漏れである。


「じゃあ、帰る時にここのケーキもうひとつ買って、食べながらまとめるというのはどうでしょうか?」


と、黒崎が提案した。

甘やかすな、というような鳴海の鋭い視線が黒崎に飛ぶが、黒崎は笑って受け流す。


その提案を聞き、彩花の表情がぱっと笑顔に変わった。

そして急いで残りのパフェを口に掻き込むと、


「そうしよそうしよー!じゃあ鳴海と立花は頑張ってねー、バイバーイ。」


と、言うなり黒崎の手を取る。そして素早く会計まで向かっていった。


「楽しそうでなによりですね、所長。」


「あのパフェ食ってまだ食う気なのか。」


テラス席に残された2人の言葉は、会計前のショーケースでケーキを真剣に選んでいる彩花にもちろん届くわけもなかった。



―午後15時18分


鳴海探偵事務所内。

彩花は以前事務所に持ってきておいたお泊まりセットの中から枕を引っ張り出し、ソファで昼寝を楽しんでいる真っ最中であった。


書類をめくる音、時計の刻む秒針の規則的なリズム、空調が効いて快適な事務所内。


最高の午後である。



しばらくして、


チリン……


と事務所のドアベルが鳴った。

そしてコツコツと音を響かせ彩花に近付いてくるが、当の彩花に起きる気配は無い。


次の瞬間、額に鋭い衝撃が走った。


「……いったぁ!!」


あまりの痛さに、彩花は額を押さえて飛び起きる。

目の前には鳴海が眉間に皺を寄せて立っていた。


「鳴海何すんのさ!」


「仕事だ。」


「可愛いあたしのおでこに傷が付いたらどうすんの!」


ぶつぶつ文句を言う彩花を無視し、鳴海は無言で枕を掻っ攫う。そして彩花のお泊まりバッグの中に押し込んだ。



「所長の目覚ましデコピンでバッチリ起きられた?」


「……最悪の目覚めだった。」


立花の言葉に涙目になりながら彩花は返す。

良かったね〜、と適当に返事をした立花を睨みながら、ソファに座り直す。


両隣に立花と黒崎、そして向かいに鳴海。

いつものポジションに全員が揃った。



「んで、尾行どうだったの?」


彩花が切り出す。


「んーとねぇ。結論から言うと、怪しいところはなかったかな。」


「へぇ、そうなんだ。」


立花の言葉に彩花は相槌を打つ。

彩花の脳裏には神崎の言葉が蘇った。

あの言葉を聞く限りは女性への好意というより、トレーナーとしての思いが窺える、そんな印象だった。


……浮気の線ほとんど消えたんじゃない?


心の中で彩花はそう呟く。

そして昨日の内山の様子を思い浮かべて、ほっと胸を撫で下ろしたくなった。


「ジムでの情報は?」


鳴海の言葉に、黒崎は彩花とまとめた情報を伝える。

その言葉を聞きながら鳴海は少しだけ考え、そして


「現段階では、まだクロの要素はないようだな。」


と、言った。


「えー!もうほとんど浮気じゃなくなったっぽくない?」


彩花はそう言うが、鳴海は首を横に振る。


「今日の結果だけで判断するのは不十分だ。」


「たまたま今日そういうシーンに遭遇しなかった、ってだけの可能性もあるしね。」


鳴海の言葉に立花も続く。


「明日以降の尾行は俺と立花で行く。顔が割れてる2人は待機だ。」


最後に鳴海はそう言い、ゆっくり席を立った。

その背中に向けて彩花は声を掛ける。


「じゃあDVD鑑賞会しててもいい?」


「……好きにしろ。」


鳴海は深い深いため息を吐いた。

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