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狂ったような咆哮とともに、ジャックは背負った大型のフッ化バッテリーからさらに強引に出力を引き出す。
自身の残された寿命すら燃料として燃やす、正気を疑うほどのエネルギー消費。
人工筋肉の限界を超えた強烈な排熱が、彼の周囲の空気を歪ませ、触れるものすべてを内側から焦がしていく。
その規格外の暴力の直撃を受け、次々と砕け散る純白の警備ドローンたち。
マリエルの制御下にある完璧な迎撃の陣形も、この理不尽な火力の前に為す術なく切り裂かれていく。
ジャックの両腕に備え付けられた巨大な回転鋸が、甲高い摩擦音を立ててマリエルの機体を正確に捉える。
一切の感情を持たずに「排除」を宣言していた彼女の人工皮膚が、無骨な刃によって斜めに両断される。
激しい火花とともに精密な電子基板が四散し、施設全体を統括していたシステムの一角が音を立てて崩れ去ったのだ。
機能を完全に停止し、力なく床へ崩れ落ちていくマリエルの残骸。
それを一瞥することもなく踏み砕き、ジャックの血走った視線がゆっくりと振り向く。その瞳が次に狙いを定めたのは、この激戦の場で唯一原型を保って立っている俺だった。
都市の底辺で暴れ回る違法集団『オーバークロッカーズ』の悪名は、下層を根城とする俺の耳にも届いていた。
だが、こうして間近で対峙するジャックは、噂に聞く以上の純粋な破壊衝動の塊だった。
ジャックの口元が、血とオイルにまみれた不気味な笑みの形に歪む。
「おいおい、そんな旧式の分厚い装甲を着込んで、一体なにから逃げようってんだ?」
嘲笑とともに響き渡る、モーターのけたたましい駆動音。
ただ壊し甲斐のありそうな「骨董品」を見つけたとばかりに、彼は両腕の刃を振りかざして突進してくる。
彼の目に映っているのは、一世紀以上も前に作られた時代遅れの機械の塊でしかない。
だが、その無軌道な突進がもたらす恐るべきトルクの圧力は、俺のリグの装甲を容易く紙切れのように引き裂くほどの重さを持っている。
俺は腰を深く落とし、リグのフレームを完全にロックして迎撃の体勢を整える。
容赦なく振り下ろされる、巨大な回転鋸の分厚い刃。
装甲板を斜めに滑らせてその衝撃をいなそうとするが、弾き返された刃が床を抉り、コンクリートの破片が散弾のように俺の顔面を打ち据えるのだ。
何の意味も持たず、ただ周囲をめちゃくちゃに壊すことだけに全力を注ぐジャック。
自身の命すらも無価値なものとして扱い、その瞬間の破壊の快楽にすべてを燃やすその姿には、底知れぬ空虚が渦巻いている。
その無軌道な熱の暴走に対して、俺の右腕の人工筋繊維が限界の摩擦音を立てて力強く抗う。
俺の骨格の深部に刻まれた、百十年以上という気の遠くなるような稼働時間。
設計者として数え切れない命を奪ってしまった過去への強烈な後悔と、今目の前にいるウェスだけは守り抜くという、重く沈み込むような手応えがそこにある。
空っぽの破壊衝動と、歴史が蓄積した途方もない重さを持った責任。
相反する二つの熱が、冷たかった処置室の空間で真っ向から激突する。
ジャックの振り回す刃をリグの分厚い装甲で受け止めるたびに、鼓膜を破るような金属音と眼が眩むほどの火花が飛び散る。
互いの人工筋肉が限界を超えて悲鳴を上げ、関節の隙間から赤熱した光が漏れ出す。
過剰な熱が装甲を伝って俺の皮膚を焼き焦がすが、この重苦しい痛みこそが、俺の重心をこの場所にしっかりと繋ぎ止めているのだ。
ジャックの激しい連撃が、俺のリグの表面を次々と削り取っていく。
このままでは、あと数合も打ち合えば俺の腕が完全に砕け散る。
だがその時、無菌室の天井の照明が突如として激しく明滅し、施設全体のスピーカーから鼓膜を破るようなノイズが鳴り響いた。
『――不正規なアクセスを検知。冷却システムに予期せぬエラーが発生――』
マリエルのシステムが予期せぬ干渉を受け、制御を失った冷却ガスが通路の各所から激しく噴き出す。
それは間違いなく、システムの最深部に囚われているはずのウェスが、無意識のうちにネットワークの中から抗い、俺を援護しようと叩きつけた意志の痕跡だった。
急激な電圧の乱れは、施設から強引に電力を吸い上げていたジャックの機体にも直撃する。
自身の命を燃やし続ける異常な出力に、機体の構造そのものが耐えきれなくなっていたところに、外部からの深刻なエラーが重なったのだ。
駆動音が不規則なノイズへと変わり、彼の足取りから最初の勢いが完全に消え去る。
俺は深く沈み込ませていた腰を上げ、足裏から床へと逃がしていた荷重を一気に右腕へと集中させる。
ジャックの回転鋸がわずかにブレた、そのコンマ数秒の隙。
俺は全身のバネを使って踏み込み、リグのフレームを固くロックした状態で、インパクト・パイルの重い杭を彼の腹部へと叩き込む。
火薬が炸裂し、すべての熱と重量が一点に凝縮される凄まじい手応え。
ジャックの体は砲弾のように弾き飛ばされ、瓦礫の山を突き破ってコンクリートの壁に深くめり込んだ。
「ハハッ……ひどく重い一撃じゃねえか。骨董品と思いきや、オーバーテクノロジーもいいところだぜえ」
口からおびただしい量の血を吐き出しながらも、ジャックの顔には狂ったような歓喜の笑みが浮かんでいる。
彼は完全にひしゃげた両腕を引きずりながら、「自分で壊すのは好きだが、他人に壊されるのは真っ平だ」と言い残し、崩れた壁の穴から暗闇の中へと笑い声とともに姿を消した。
破壊の嵐が過ぎ去り、瓦礫に埋もれた空間に突突として訪れる、耳鳴りがするほどの重い静寂。
マリエルの指揮していたドローン部隊も、狂気に満ちたジャックの姿も、もはやここには存在しない。
漏れ出した冷却液が床を這うように流れ、ひび割れたモニターの微かな明かりだけが、俺の視界を不規則に照らしている。
限界に近い酷使により、熱耐性格子による冷却が追いつかず、熱を持った肌の上を滝のような汗が流れる。
ジャックの無差別な蹂躙によって破壊された施設のまだ無傷で残されている区画に、ウェスが囚われているはずだ。
俺は火花を散らすリグの駆動系を落としたことによって鉛のように重くなった足を引きずり出す。
ウェスが後戻りできなくなる前に彼の元へと行かなければならない。俺は瓦礫を掻き分け、施設のさらに深淵へと急ぐのだった。




