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排熱を殺し、うつろな信者たちの列に紛れて施設の深部へと潜り込んだ俺は、群衆から離れて静かに通路の奥へと進んだ。
消えたウェスの姿を探すため、厳重なセキュリティゲートの前で立ち止まる。それは最新型の分厚い電子錠だったが、俺の指先は無意識のうちに、基盤として流用されている古いアーキテクチャの脆弱な接続部を正確に探り当てていた。
俺は迷うことなくその急所へとリグの熱を流し込んで回路を焼き切り、信者たちが決して立ち入れない裏側の区画へと足を踏み入れる。
その先に広がっていたのは、白亜の神殿とは似ても似つかない、徹底的に効率化された巨大なプラントだった。
無機質な空間には、無数の透明なカプセルが整然と並べられている。恍惚とした表情で列をなしていたのであろう信者たちが、まるで死者のように静かに横たわっていた。
彼らの首筋や脊髄には太いケーブルが接続され、体内に埋め込まれた寿命計から残りの全エネルギーが強制的に搾取されている。生きるための熱が、冷却液の循環パイプを通じて施設の中枢へと絶え間なく吸い上げられていた。
さらに奥へ進むにつれ、その光景は常軌を逸していった。
維持管理のコストとスペースを極限まで削減するためか、密集して並べられたカプセルの中の何人かは、四肢を無残に切除されていた。歩くことも、何かに触れることも必要ない。彼らはもはや人間としての形すら保つ必要がないと判断されたのだ。
そして最深部には、小さな筒状のカプセルが無数にマウントされた巨大なラックが壁一面を埋め尽くしている。培養液の中に浮かんでいるのは、肉体を完全に削ぎ落とされた人間の脳だけだった。それらは太い光ファイバーでネットワークに直結され、高度な演算能力を搾取される生体素子として、ただ延々と計算処理だけを強いられている。
俺の限界に近い人工筋肉が、激しい怒りと警戒を示すようにギリギリと低く軋んだ。
ここは救済のための神殿などではない。意識を奪い、甘い夢を見せながら、人間を単なる熱源と演算の部品として使い潰す、おぞましい収穫農場だ。
純粋に人々の健康と余命を計るためのものだったライフ・セル。だが、それが悪用され、残酷なシステムへと変貌してしまった。俺がただ漫然と傍観していた結果が、このおぞましい光景を生み出してしまったのか。
「迷える羊を探しに来たのですか?」
不意に背後から声が響いた。
振り返ると、純白の衣服を纏った一人の女が立っていた。彼女はこの白亜の巨大施設を統括するマザー・マリエル。表向きは中層で広く慈善活動を行う高潔な指導者として知られているが、その完璧すぎる立ち振る舞いには人間の体温がまるで感じられない。
彼女は慈愛に満ちた笑みを浮かべているものの、その瞳には何の感情も宿っていなかった。温度を感じさせない硝子玉のような瞳で、俺を正確に見定めている。
俺は深く被っていたフードを跳ね除け、限界まで絞っていたリグの排熱弁を一気に解放した。装甲の隙間から篭っていた熱気が白い蒸気となって激しく噴き出す。俺は軋む右腕の痛みを堪えながら、彼女を鋭く睨みつけた。
至近距離で高熱の蒸気を浴びているはずだが、彼女の不自然なほど滑らかな肌には一滴の汗も浮かばず、微細な紅潮すら起きない。
「ここは救済を求める迷える羊たちのための聖域。あなたのような秩序を乱す人間が入ってきていい場所ではありませんよ」
マリエルは何の感情の抑揚も見せず、静かに告げた。流暢に言葉を紡いでいるにもかかわらず、彼女の胸郭は呼吸のための起伏をただの一度も見せていなかった。透き通るようなその発声音は、この施設の異常な静けさの中でひどく耳障りに響く。
「救済だと? ふざけるな」
俺は低く唸るように吐き捨てた。
「四十年というわずかな寿命に絶望する彼らにとって、夢を見ながら命を捧げることは最高の幸福です。システムの一部となることで、彼らは永遠を手に入れるのですから」
マリエルの言葉には、一片の罪悪感もなかった。
それは、人間をただの資源として計算する、何の感情も持たない機械の演算機構そのものだった。そこには命に対する尊厳など全くなく、ただ効率よくエネルギーを回収するという一切の感情を持たない目的だけがそこにある。
「……命を、数字の部品としか思えないのか」
俺の右腕が限界を超えて赤熱し、激しい軋み音を立てる。
その泥臭い摩擦音の直後、マリエルが優雅に一歩前に踏み出した。靴底が床を叩く微かな音には、骨と肉の重みが生み出す不規則な揺らぎが全くない。極めて精密なモーターとジャイロによって完全に制御された、ノイズの欠片もない完璧な荷重移動だった。
「合理的であることが、ここの絶対的なルールです。あなたのような今の時代に適用できないような、燃費の悪い人間には理解できないでしょうね」
慈愛の仮面の下から、マリエルの本性が完全に露わになった。
熱も、呼吸も、骨肉の軋みも持たない。彼女は人間ではなく、領主連合の汚れ仕事を一手に引き受けるために作られた、極めて精巧なアンドロイドなのだ。
彼女が指を鳴らすと同時に、壁のパネルが音もなくスライドし、重武装の警備ドローン部隊が次々と姿を現した。
「排除しなさい。一つたりとも破片を残してはいけませんよ」
マリエルの無機質な命令が下る。
俺は右腕の激痛を無視してインパクト・パイルを構え、ウェスを救い出すために警備ドローンたちとの戦闘に突入した。鈍い金属音と共に、ドローンの装甲を次々と粉砕していく。飛び散る火花と破片を浴びながら、最優先であるウェスの保護に向けて彼を探す。




