28
ウェスの激しい怒号が、分厚い鉛の壁に覆われた狭い診療所に激しく反響し、重苦しく息の詰まるような沈黙がその後に残された。
強烈な消毒液と機械油の匂いが漂う薄暗い空間で、俺とウェスの間に、決して埋めることのできない深い亀裂が走っていた。
「どうしてだ……。なぜお前が俺たちを作った! なぜ俺たちを四十年で殺すシステムなんか組んだんだ!」
ウェスが震える声で俺に問い詰める。
彼の両手は爪が白くなるほどきつく握りしめられ、今にも俺の服に掴みかからんばかりの勢いだった。ナオはその凄まじい怒気に怯え、部屋の隅の暗がりへ身をすくませている。
サツキは汚れた手袋を外し、静かに我々のやり取りを見守っていた。彼女はただの傍観者として、このどうしようもない断絶の結末を最後まで見届けようとしているようだった。
俺は過熱しきった体を強引に起こそうとしたが、焼け焦げた人工筋肉がひどく軋み、思うように動かない。
俺の視線は、ウェスの怒りに満ちた瞳を真っ直ぐに捉えていた。
終わりのない時間を生き続ける俺と、資源として短命を強いられるウェス。
俺たちは同じ下層の泥水をすすり、肩を寄せ合いながら生き抜いてきたと思っていた。だが、俺たちの間には、言葉では到底埋めることのできない途方もなく残酷な時間の差が横たわっていたのだ。
俺の一世紀以上という気の遠くなるような時間は、彼らの四十年という短い命をいくつも積み重ね、その残骸の上に成り立っている。
彼が日々感じている迫り来る寿命への焦燥感や、明日を生き延びるための必死な飢えを、俺が本当に理解し共有することなど不可能なのだ。俺が傍観し続けた結果できあがったシステムによって、加害者と被害者という決して覆ることのない強固な関係性が生まれてしまっていた。
「答えろよ、カイト! 俺たちはお前たちの部品か!? 使い捨ての電池に設計したのかよ!」
ウェスの叫びには、自身が生まれた時から背負わされている理不尽な運命に対する、深い絶望が滲んでいた。
俺は深く、重い息を吐き、ようやく口を開いた。
「……すまなかった」
俺の口から出たのは、ひどく不器用で、彼にとっては全く意味を持たない謝罪の言葉だけだった。
俺が口を閉ざしている限り、ウェスは俺が『デザインライフ』そのものを設計したと思い込むだろう。だが、たとえ真実を語ったところで何になる。俺の作った技術が悪用され、彼らが搾取されているという無惨な結果は何も変わらない。俺が世界から目を背けていた事実を並べ立てたところで、今を必死に生きる彼には何の救いにもならないのだから。
俺が頭を下げた瞬間、ウェスの顔が怒りで真っ赤に染まった。
「すまなかっただと……? そんな言葉で、俺たちの命が延びるのかよ!」
ウェスは足元にあった医療器具のトレイを、思い切り乱暴に蹴り飛ばした。
鈍い金属の部品が床に散らばる甲高い音が響き、ナオが小さく悲鳴を上げる。俺の重すぎる沈黙とただの謝罪が、逆にウェスの感情を激しく逆撫でし、彼の心を限界まで追い詰めていた。
「お前が今まで俺を守ってきたのも、ただの罪滅ぼしだったんだろ? 神様気取りの傲慢な偽善だ!」
ウェスは俺を指差しながら、吐き捨てるように言った。
俺が自分の身を内側から削って彼を危険から遠ざけようとしてきた不器用な行動すらも、今の彼にとっては己の罪を軽くするための、利己的で気まぐれな振る舞いにしか見えないのだろう。
命がけで築き上げてきたはずの俺たちの関係は、たった一つの残酷な事実と、埋めようのない誤解によって完全に崩壊した。
ウェスは自身の言葉で、今まで寄りかかっていた俺という存在を激しく突き放した。彼にとって、もはやカイトは背中を預ける相棒ではなく、自分たちを平然と搾取する感情を持たないシステムの象徴でしかなかった。
「もうたくさんだ。お前の顔なんて二度と見たくない」
ウェスは踵を返し、診療所の重厚な扉へと足早に向かった。
「待て、ウェス! 外はまだ監視網が……」
俺が無理やり腕を動かして制止しようと手を伸ばすが、彼は振り返ることもなく扉の重いロックに手をかけた。
「俺に構うな!」
激しい拒絶の言葉を残し、ウェスは鉛の扉を乱暴に開け放つ。
中層の命の気配がない冷え切った空気が一気に流れ込み、彼はそのまま清潔な通路の奥へと走り去ってしまった。扉が重々しい音を立てて再び閉まり、後には俺とサツキ、そして泣き出しそうな顔をしたナオだけが取り残された。
「行かせちゃっていいの? あの坊や、この中層で一人じゃすぐに行き倒れるわよ」
サツキが腕を組みながら、冷ややかに呟く。
俺は自身の動かない右腕を見つめ、孤独な背中を置き去りにした彼の姿を思っていた。ウェスは今、短命の絶望と俺への怒りを抱えたまま、中層の華やかで残酷なメインストリートへと迷い込んでいったのだ。
7/15 表記ゆれ修正




