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工房に戻った直後、俺は一切の休息を挟むことなく、右腕のダメージチェックに取り掛かった。
軋むような金属音、それが右腕の代償だった。
俺は分厚い装甲板のロックを外し、リグのメインフレームを関節部から精密に分解して内部の構造を調べる。
深刻な状態だった。駆動を司るポリマー繊維の束が一箇所、ジョイントの固定ピンのすぐ横でひどくよじれてしまっている。そのよじれは繊維の伸長方向に対して斜めにかかっており、このまま高負荷の格闘動作を続ければ、伸長の途中で完全に断裂する可能性が極めて高い。
さらに、肘の内側に組み込まれた制動用の摩擦材が完全に限界まで摩耗していた。インパクト・パイルの反動だけが原因ではない。以前から少しずつ積み重なっていた微細な金属疲労と負荷が、あの極端な圧力によって一気に顕在化したのだ。
早急な部品の交換が必要だった。
「……治る見込みはあるのか? どう見ても、その辺のジャンク屋に転がってるような今どきの部品じゃないだろ、それ」
作業台の向こうで、顔色の悪いウェスが不安げに聞く。
「直せる可能性はある。だが、完全に適合する代替部品を持っているか、あるいは代用できる素材を調達できるかは、実際に行ってみないと計算できない」
「行くってどこに?……今からかよ」
俺は頷いた。
今夜の強襲騒ぎで、俺とウェスの顔は完全にボルト・シャークに割れた。明日以降、領主連合の正規部隊がこの区画の住人を巻き込んで強引に動く可能性が高い。今のうちに安全な場所へ移動し、なおかつ腕の修理拠点を確保しておいた方が合理的だ。行き先がジジの店なら、地下の安全なルートも網羅している。
「行こう」
俺は分解した右腕のパーツをポーチに放り込み、立ち上がった。
情報屋ジジの店は、第十四廃区のさらに外れ、ほとんど人が寄り付かない沈下層の境界にある。
通りに面した表の看板などは一切なく、入り口の分厚い鉄扉が薄暗い路地の奥深くに隠れるように同化しているが、知っている者にはその場所の匂いでわかる。
重い扉を押し開けると、極度に乾燥した空気とともに、紙と金属と古い機械油の匂いが複雑に混ざり合った、独特の空気が鼻腔を打った。
店内は、足の踏み場もないほどの物量で埋め尽くされている。
歪んだ鉄骨の棚が天井まで届くほどに高く積み上がり、そこに収まりきらない無数の品物が、床のあちこちに無造作に積み重なって巨大な山を形成している。
すでにネットワークの電力を通わせることのない、旧世代のスマートフォンの残骸。データではなく紙に直接定着された、色褪せた現像写真の山。黄ばんで崩れかけた紙の束。それと、用途すら不明な各種電子機器の基板の残骸が、棚の枠から滝のようにこぼれ落ちている。
この店の空気には、使われなくなったものだけが持つ特有の静けさがある。機能的に壊れたから捨てられたのではなく、ただ単純に、歴史や時代がそれらの上を通り過ぎていっただけの、化石のような静けさだ。
奥の暗がりから、店の主であるジジが姿を現した。
手にした旧式のランタンの光を俺たちの顔に向け、それから、だらりと下がった俺の右腕の異様な状態に視線を固定する。
「……また無茶をして壊したか、厄介者め」
ジジが、ランタンを揺らしながら嗄れた声で言う。
「壊してはいない。設計上の限界値を超えて摩耗しただけだ」
「儂の目から見れば、どっちも同じじゃ、違法な改造しているオーバーなんちゃらという輩どもと大して変わりもせんぞ」
ジジの倉庫には、俺の旧式リグに完全に適合する同じ規格の制動材のストックは無かった。
だが、代替材として手作業で加工可能な素材が、ジャンクの山の奥底に埋もれていた。ジジが引きずり出してきた大戦前の廃品リグから、俺の右腕の制動材と極めて近い硬度と摩擦係数を持つポリマー部材を強引に引き抜くことができた。
完全に一致する規格品ではないため、耐久性とシステムへの適合性にわずかな不確定性が残る。だが、俺の工房にある劣悪なジャンク資材を削って使うよりは、遥かに精度の高い修復が見込めるはずだった。
俺はジジの店の中央にある、油にまみれた頑丈な作業台を借りて、即座に換装作業を開始した。
傍らでは、ウェスが興味深そうに周囲の棚のガラクタを眺めている。ナオは入り口近くに置かれたスプリングの壊れたソファに深く座り込んでおり、ジジが古い薬缶で沸かして持ってきた白湯を両手で抱えていた。ナオはそのカップの温かさを確かめるように、少しの間、彫像のように持ったまま動かなかった。
外から、重機のような無骨なバイクのエンジン音が響いてきたのは、俺が右腕のジョイント部分の削り出しを行っている最中のことだった。
ドドドド……という、壁越しにも腹に響くようなチェーン駆動の低い周波数。この電動化された区画ではめったに聞き慣れない、内燃機関特有の鼓膜を叩く燃焼音だ。
「……あいつか」
ジジが作業の手を止め、バイクの音がした分厚い扉の方向を見ながら呟いた。
「誰だ」
ウェスが警戒してダガーに手を伸ばす。
「よく知っとる顔じゃ。悪い顔ではない。……ただ、少しばかり騒がしいがな」
外でバイクの轟音がピタリと止み、それから乱暴な手つきでドアが勢いよく開かれた。




