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ガタンッ!
ウェスがベンチから跳ね起きるように立ち上がり、手にしていたカップを作業台の端に叩きつけるように置いた。激しい音が工房に響き、白湯がこぼれて鉄板の上に薄く広がる。
俺は工房の奥、重い鉄骨の棚の下に隠してある大型の保管箱の前に立った。
黒い特殊強化樹脂のケース。
その分厚い金属製の留め具を親指で強引に弾き開けると、内側の防湿ウレタンの窪みにピタリと嵌まった、巨大な砲身部分が現れる。
金属の表面色は鈍く均一で、目立った使用跡はない。指先で触れると、氷のように冷たく、そこに凝縮された異常な密度の重みが伝わってくる。俺がこの暴力装置を使わないことを選んでから、ずっとこの箱の底で眠り続けていたものだ。
杭打機。
俺は極太の砲身を取り出し、後部の分厚いチャンバーのロックを解除して目視で確認する。薬室を開いて内壁に異常な摩擦痕がないかを確かめ、装薬カートリッジと超硬合金のパイルを装填してチェックしていく。
ウェスが俺の後ろでその一連の動作を見ていたが、何も言わなかった。
「……それを使ったら、連合の武装粛清部隊が来るぞ」
少しの沈黙の後で、ウェスが押し殺したような声で言った。
「来るだろうな」
「それでも使う気か」
「ナオを取り戻すには、あの部隊の隊長であるハンスという男を止めるしかない。ハンスを止めるには、奴の装備している重装甲と電磁障壁を越えないといけない。あれを越えるには、俺の出力ではこれしかない」
ウェスが再び沈黙した。
俺の行動に対する異論を組み立てているのではなく、俺の提示した因果関係が、破綻していないことを確認している沈黙だった。
「……連合に決定的に目をつけられたら、この工房も終わりだ。いや、この第十四区画の住人全体が、制裁として完全に潰されるかもしれない」
ウェスの声には、理性が残っていた。
「そうなる可能性が極めて高い」
「……なのに、やるのか」
俺は極太の砲身の可動部に専用の滑油を薄く塗り込み、ウエスで丁寧に余分な油を拭き取ってから、リグの右前腕にある外部武装用の固定ポートへと強引に噛ませた。
ガキンッ、という重い金属のロックが入る確かな感触。
巨大な銃口がリグの肘の内側の角度に合わせて完璧に固定され、右腕を真っ直ぐに伸ばした延長線上に、凶悪な砲軸が通る。この巨大な鉄の重みが加わることで、俺の右腕から肩にかけての重心バランスが大きく変化する。
「やる理由と、その結果支払うべき代償の話をするなら、今ここで立ち止まってするよりも、すべてが終わった後でする方が合理的だ」
俺は右腕を数回曲げ伸ばしし、トルクの出力を再調整しながら答えた。
ウェスがまた黙った。だが今度の沈黙は、わずか一秒と極めて短かった。
「……オレも行く」
工房を出る前に、息を荒げている少女が伝えてくれたわずかな情報を内部で整理する。
ナオが連行されたのは、縫製工場から北に一ブロック離れた場所にある仮設管理棟。ボルト・シャークの部隊が、今夜の強制回収の拠点としてそこを使っているということだった。
管理棟の設備基準を知識と照らし合わせる。あれは安価な鉄骨の軽量建築であり、自重と構造計算からして、地下や三層以上の階層は想定していない作りの箱だ。
部隊を率いるハンス本人は、相当に重い防護装備を身につけているはずで、周囲に展開している電磁障壁の出力も相応に高い。ウェスが持っている自作のバイパス・ダガー程度の電流では、表面を撫でるだけで決して届かない。だからこそ、俺はこの工房の奥で眠らせていた過剰な破壊兵器を使うという判断を下したのだ。
「……ハンスの急所に、近づけるのか」
ウェスが、俺の右腕の異様な塊を見ながら尋ねる。
「奴が三層の多重障壁を展開していれば、俺の機動力を持ってしても、外側から一層を突破するのに約三分はかかる。ハンスが二十メートル以内にいれば……」
「二十メートルでは、このダガーは届かない。最低でも五メートル以内だ」
ウェスが言い放ち、顔色を変えた。
五メートル。それはすなわち、電磁障壁をすべて突破し、敵の殺傷範囲の完全な内側へと身を晒すことを意味する。それがどれほど命取りな状態であるかは、ストリートで生きてきたウェスにも痛いほどわかっている。
「……どうやって入るつもりだ、あの拠点に」
「ドアからだ」
俺の即答に、ウェスが呆れたように俺を見た。
「ドアから、正面から普通に入る」
ウェスはしばらく何も言わなかった。
それから、自身の左手首の寿命計を、すべてを諦めたような手つきで一度だけ確認して、鉄扉の方へと迷いなく向かった。




