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INDEX  作者: クネロ
16/28

15

 工房に戻ったのは、完全に昼を回って午後になってからのことだった。

 俺はウェスを工房の奥にある硬いベンチに座らせた。


 あの後、自力で立ち上がれなくなった彼が歩いてここまで帰ってこられたのは、俺が肩を貸したからであり、彼一人では立ち上がることすら不可能だったはずだ。ボルト・シャークの三人は、俺に敵わないと判断すると、ウェスを蹴り飛ばし、素早く工場の前から姿を消した。

 だが、それは彼らが諦めたからではない。ウェスという生意気な野良犬から引き出せるだけのエネルギーを残酷に引き出し終え、安全な次の標的を求めて別の区画へと移動していっただけのことだ。奴らというシステム側から見れば、あの場所での「収穫作業」は完了したのだ。


 俺はウェスの左手首に巻かれたままの、寿命計ライフ・セルのデバイスを確認した。

 液晶に表示された細かい数値の重みは、俺には正確には読み取れない。だが、ウェスが自分のデバイスの蓋を開いてその数字を見た瞬間の、死人のような顔色から、それが決して良い数字ではないことだけは明確にわかった。


「……どれくらい、抜かれた」


「……週換算で言うと、三週間分くらいだ」


 三週間。

 この光の差さない下層において、一人の人間がジャンクを漁って生き延びるための、三週間分の純粋な余命。それが、今日の午前中のわずか数分間で、強制的にシステムへと吸い上げられ、消えた。

 ウェスはかすれた声で数字を数えながら、パタンと蓋を閉じてデバイスを膝の上に置いた。


 俺は作業台の端にある古いケトルで湯を沸かし、ただの白湯を作って、汚れたマグカップに入れてウェスに渡した。

 ウェスはそれを両手で受け取り、中身の熱を確かめるように少しだけ顔の高さに持ち上げる。だが、それ以上の動作が彼から起こることはなかった。喉の渇きを癒したいわけでも、熱の恩恵を受けたいわけでもなく、ただ手に何かを持っていれば、なんとか正気を保って思考を続けられる。そういうことなのだと俺は理解した。


 俺は作業台の向こう側で、工具の整理を始めていた。

 特に今すぐやらなければならない必要な作業ではない。棚の配置を確かめ、スパナやドライバーの向きを揃えて置き直すだけの、無意味な反復動作だ。

 だが、ウェスが重く沈んだ沈黙に沈んでいるときに、俺まで完全に動作を停止して見つめていると、この強がりな少年が逆に言葉を発しにくくなる場合がある。だから俺は、あえて単調な金属音を工房の中に響かせ続けていた。


 やがて、ウェスがひび割れた声で口を開いた。


「……あいつら、止められませんでした」


「そうだな」


「オレが偉そうに止めようとして、結局、三週間分を奪われて、損だけした。ただの無駄死にの真似事だ」


「そうだな」


 ウェスが、顔を上げて俺の方を見た。

 無機質な俺の肯定に対して、反論を待っているのか、それとも惨めな自分への共感を求めているのか、彼自身にもはっきりしないような顔だった。


「オレのやったことに……それでも、やる意味がありましたか」


 俺はスパナの向きを真っ直ぐに揃えながら、内部で言語の変換を試みた。

 「意味」という曖昧な言葉を使うと、答えが計算可能なものではなく、感情的で別の話になってしまう。それは俺の回路が最も不得意とする領域の計算だ。


「ウェス。お前がダガーを握ってあの中央の男に立ち向かったとき、工場の建物の外側に、いったい人が何人いたと思う」


「……見てません。自分の視界のことで精一杯だった」


「三十人以上いた」

 俺は作業の手を止め、ウェスの目を真っ直ぐに見て言った。

「お前が奴らの前に立ち塞がり、戦闘状態に入って止まらなかったから、その三十人には、その場から蜘蛛の子を散らすように逃げるための時間が生まれた。逃げることのできた人間は、今日の容赦のないハーベスト(収穫)には遭わなかった。それが事実だ」


 ウェスが、自分の両手に持っているカップを見つめた。

 両手から伝わる温かい白湯の熱が、指先からゆっくりと彼の凍りついた体内に届いているはずだ。それがいまのウェスのシステムには、何よりも必要なことだった。


「……それは、オレが計算してやったわけじゃない」


「計算してやることばかりが、有効な結果を生むわけじゃない」


 ウェスが再び顔を上げて俺を見た。

 今度は、先ほどまでの惨めな顔とは別の顔だった。俺に正解を探しているのではなく、カイトという不可解な機械の構造を、もう一度根本から測り直しているような顔。それはウェスが、自分の損得計算の外側にある巨大な変数に直面したときの顔だ。


 夕方になって、分厚い鉄扉を外から強く叩く音がした。

 ドンドン、という切羽詰まった激しい打撃音。


 俺がロックを外してドアを開けると、そこには十代半ばの少女が立っていた。

 縫製工場の酷く汚れた作業着を着ており、前掛けのホックが半分外れたままであることにも気づいていない。荒い息を必死に整えながら、恐怖に見開かれた目で俺を見て、それから奥のベンチに座るウェスを見た。


「カイトさんのとこに来れば、ウェスさんがいるって聞いて……!」


「何があった」


「ナオが……ナオが、ボルト・シャークに連行されました! 今日の夕方に、いきなり工場の中に奴らが入ってきて。ライフ・セルが規定の閾値を下回った不良債権だからって、無理やり外に引っ張り出されて……!」

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