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工場の入り口が見えた。
分厚いシャッターの前に、不安に駆られた労働者たちの人だかりができている。そして、その出入り口を完全に封鎖するように、三人の男が立っていた。ボルト・シャークの構成員だ。
その三人の前に、たった一人でウェスが立ち塞がっている。
中央に立つ男は、周囲の労働者とは比較にならないほど体格がいい。
装着しているリグそのものは旧式の標準型だが、重要な関節部や外装に分厚い装甲板が荒々しく溶接されており、それが支給された規格品ではないことを示している。
男は右手に黒光りする太い電磁警棒を持ち、左手に不気味な形状の端子読み取り機を握っていた。その読み取り機は、ナオたち下層民の手首にある寿命計に直接接続し、強制回収の対象かどうかをシステムに判定させるための処刑道具だ。
「お前らの区画が、昨夜から電力カットの対象になっているのはわかるだろ」
中央の男が、事実だけを告げる感情のない声で周囲に告げる。
「これより、管理システムに対する電力の返還義務が発生した。対象個体の生体エネルギーを強制回収する。業務を妨害した場合は、連合規約第十二条により、その場で強制排除する権限が我々には与えられている」
その見下すような宣言に対するウェスの返事は、たった一語だった。
「やってみろ」
言葉の残響が消える前に、ウェスが動いた。
右手に握り込んだバイパス・ダガーの切先を、右端に立つ男のリグの脆弱な端子に向けて、最短距離で突き出す。
だが、男は熟練の動きで半歩退いてそれを避け、即座に持っていた警棒でダガーの軌道を強引に弾き飛ばした。金属同士が激突する甲高い音と、散る火花。
ウェスがダガーの方向を変え、次の攻撃に移行しようと体重を乗せ直したその瞬間。中央の男が、巨体に似合わぬ滑らかなステップでウェスの死角へと入り込んだ。
男が振り抜いた電磁警棒の先端。
それが、ウェスの左手首――寿命計のデバイスに直撃した。
打撃音は出なかった。発光現象もなかった。
だが、警棒から放たれた目に見えない強烈な電磁パルスが、ウェスの神経系とリグの制御回路に直接叩き込まれた。
ウェスの細い体が一瞬にして制御を失い、大きくよろめく。左足の膝がガクンと折れ曲がり、コンクリートの地面にキスをする寸前まで崩れ落ちた。
ギリッ、という奥歯を強く噛み締める音。ウェスは必死に体勢を立て直したが、そのダメージの深刻さは、少し離れた場所にいる俺の目にも明らかだった。
「ジジッ、ジジジジッ!」
ウェスの胸元に這わせた無数の配線が、急激な負荷上昇に耐えきれず、狂ったようなスパーク音を出し始めた。
システムが麻痺しているにもかかわらず、ウェスは自身の寿命を前借りし、限界を超えたオーバードライブで無理やりリグの出力を上げようとしているのだ。
俺はウェスの名を呼ばなかった。
呼んだところで彼の暴走は止まらないし、今の彼を止めるための言葉も理由もなかった。
だが、出力差は歴然だった。
中央の男が感情を消した目で警棒を高く振り上げ、立て直そうとするウェスに向かって二度目の命を奪いかねない打撃を振り下ろした。
バチィッ!という破裂音。
警棒の先端がウェスの前腕に巻かれた導電布に直撃し、ウェスの体は後方へと激しく吹き飛ばされ、地面を引きずられるように後退した。
膝が完全にコンクリートに叩きつけられる。彼が完全に倒れ伏さなかったのは、彼の強靭な精神力や根性のおかげではない。リグの強固な金属フレームそのものが、彼の姿勢を保持して支えたに過ぎない。
だが、うなだれたウェスの顔には、もはや生気と呼べるものは微塵も動いていなかった。
男がゆっくりと歩み寄り、事務的な動作で読み取り機をウェスの左手首のデバイスに押し当てた。
ピピッ、と電子音が鳴り、液晶に表示された残量数値を見て、男は歪んだ笑みを浮かべた。
「お前みたいに抵抗する野良犬が、一番効率がいいんだよ。恐怖と怒りで、ギリギリまで自分で出力を上げて、俺たちのためにエネルギーを稼いでくれるからな」
男はウェスを蹴り飛ばすように突き放すと、悠然とこちらを振り返った。
その濁った目が、俺を捉える。
「お前のも、残らず貰うか」
俺は深く息を吐き、静かに一歩前へと出た。
あいつは最も重要なことを見誤っている。
あの警棒の放つ電磁場が有効なのは、接触した相手のリグに、外部からの干渉を受け付ける高度な電子回路が組み込まれている場合のみだ。
俺の装着している旧式リグには、外部のネットワークに接続するための端子など最初から無い。電磁干渉を受け付けて回路を焼き切られるような、繊細な基板がそもそも積まれていないのだ。
俺が立ち止まったのを見て、男が殺意とともに重い足取りで踏み込んでくる。
俺の人工筋繊維は戦闘に適応するべく、静かに、そして凄まじい速度でその熱量と出力を上げた。
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