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INDEX  作者: クネロ
12/27

11

 目的の中継変電設備に近づくと、分厚いコンクリートの壁面に、真新しい封鎖区域の表示板が打ち付けられていた。

 それが、埃まみれの薄暗い通路の中で、目に刺さるような光沢を放っている。

 金属板に乗った塗料の艶がまだ死んでおらず、四隅の角も一切欠けていない。酸性雨や粉塵に晒され続けるこの下層において、それが極めて最近設置されたものであることは、わざわざ近寄って表面を撫でるまでもなく、遠目からでもはっきりとわかる。

 少し前を歩いていたウェスが立ち止まり、その板の文面を凝視してから、その場で小さく顎を引いた。新しい板が周囲の空間に放っている、「ここは上位の権力によって厳密に管理されている」という威圧するような空気を、この少年は正確に嗅ぎ取っていた。


「……これ、領主連合の公式な認証マークだ」

 ウェスが、板の右下に刻印された紋章を指差して言った。


 認証マーク。

 それは、下層から富を吸い上げる徴収ギルドと、都市を支配する領主連合との間で取り交わされた、正式な設備介入の許可証を意味する。この巨大な変電設備の管理権そのものが、連合から特定の民間業者へと委託されたことを示す動かぬ証拠だ。そして、委託されたその業者は、設備へのアクセス権と内部の配線への介入権を、法的な後ろ盾とともに完全に掌握していることになる。


「つまり、完全に合法なわけだ」

 ウェスが言葉を続けた。それは恐れや感情に任せた諦めから来る言葉ではなく、計算の行き着く先、結論を早く口にしてしまいたいという、彼特有の冷静な合理主義の声だった。


「合法じゃなきゃ、こんな目立つ新しい板を堂々と建てたりはしない。領主連合が黙認している。いや、黙認じゃない。完全に知っている上で、下層からの熱の搾取をシステムの一部として許容している。それが、この状況のすべての答えだと思う」


 ウェスの言う通りだ。

 この都市の法理は、常に持てる者の利益を守るために機能している。下層の末端から熱を絞り上げ、どこか別の特権階級のエリアへと送る。その理不尽な回路変更は、この表示板がある限り「正当な都市管理業務」として扱われるのだ。


 俺は何も答えず、立ち止まっているウェスの横を通り抜け、表示板の脇を迂回して設備の敷地内へと足を踏み入れた。

 ウェスが、理解できないものを見る目つきで一拍遅れてついてくる。


 変電設備の外壁は、古い時代の打ちっぱなしのコンクリートだ。

 その壁面の下部に並んだ分厚い換気スリットから、低周波の駆動音とともに、淀んだ空気が絶え間なく押し出されている。

 俺は手袋を外し、素手の右掌をスリットの前にかざした。

 温かい。

 内部で巨大なトランスか何かの機器がフル稼働しており、電気を変換する際に生じる不可避の変換ロスの熱を、排熱ファンが必死に外へ吐き出しているのだ。

 新しい中継器をこれだけの高出力で動かすには、莫大な電力が必要になる。だが、その電力をどこから引いているかが問題だ。現在このスリットから吹き出している熱量と電流量を計算すれば、ここの機器が、単に通り道として電力を送電しているのではなく、メイングリッドから能動的にエネルギーを吸い上げていることに間違いなかった。


「……わかっている事実を整理すると」

 背後に立つウェスが、俺の動作を見ながら冷静に言う。


「あの工事で新しい中継器を入れた。その中継器が、グリッドから流れる電力の一部を横取りしている。横取りした熱の行き先がどこかは正確にはわからないが、誰かの、どこかの特定の高密度セル群を充電している。それが、連合の許可という強固な盾のもとで行われている。そういうことだな」


「その通りだ」

 俺はスリットから手を離し、外壁の構造を視線でなぞりながら答えた。


「じゃあ、オレたちにはどうにもならないってことか」


 ウェスの声のトーンは、最初から一切変わっていない。

 怒りで感情的になっているのでもなく、無力感に打ちひしがれているのでもなく、ただ「変更不可能な現状の構造」として、事実を述べているだけだ。

 彼の計算は完全に正しい。この末端設備が連合の委託を受けた正規業者によって管理されている以上、外部の人間が勝手にそれに触れ、改変することは明確な「重罪」を生む。

 このセクター・ラストにおいて、連合に対して法に触れる問題を起こすということは、すなわち連合の直属である武装粛清部隊の視線をこちらへ向けさせることを意味する。もしそうなれば、俺個人の命はおろか、ナオやウェスを含め、この区画の住人すべてが連帯責任として締め付けられ、完全にすり潰されることになる。


 俺はウェスの言葉に応じず、変電設備の外壁に沿ってゆっくりと一周した。

 裏側に回ると、太い幹線ケーブルからブロックの末端へと電力を分配する、巨大な接続ポイントがあった。

 分厚い鋼鉄製の端子ボックス。その扉を封じる錠前は、南京錠やアナログのシリンダーではなく、暗号キーを必要とする最新型の電子認証式ロックに変更されていた。

 だが、問題はそこではない。ボックスの内部に引き込まれた配線のトポロジーだ。引き込まれた配線が外側の壁面を這っている箇所が一部でもあれば、そこから別のルートを構築することは可能なのだ。


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