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エゴの開花

さて、その頃のミズキとクズノはというと。

ラカが意識を向ける。ちょうどクズノの糸がミズキを絡め取ったところだった。


「ふふっ。私の思い通りに動いてね?」


操り人形の要領でミズキの手足を自在に動かす。不自然な動きで跳ね上げた足の甲に糸を撚った棘が突き刺さった。絡まる糸は痛みに悶えることも許さず、次の動きをミズキに強いる。二の腕に棘が刺さった。


「どう? 降参するなら今のうちよ。ね?」


今ならまだ許してあげよう。一応、幼馴染なのだし。引き下がるなら容赦してあげよう。

これだけ痛めつけたのだし、力の差は思い知ったはず。もう糸はミズキの全身を絡めて指一本自由にさせない。


降参を勧める。しかしミズキは一切弱ったふうなどしていなかった。


「っは……手足ばっかりで急所は狙わないのね。やっぱり殺すの怖いんでしょ?」


こんな絶好の獲物に成り下がったのに、クズノがやることといえば手足を痛めつけるだけ。

さっさと殺してしまえばいいのにそれもしない。できない。やる覚悟がない。


「そんなんじゃ勝てないってば」


糸で操られながら、手足が動くたびに仕込んでいた境界線を起動させる。散々引いた線から防御壁が生成される。線をまたぐものを切断して。

すべての操り糸を切断し、ついでに自分の周りに防御壁を展開する。これでもう操り糸をかけられない。


形勢逆転。


「私は必要なら殺せるよ?」


こんなふうに。ぴ、と指で空気を切る。クズノの首にかぶるように。しかし線が引かれて防御壁が生成されるわずかな隙にクズノが身を翻したせいで不発に終わる。首ではなく二の腕の浅い場所を切っただけだった。


「そ、そんな血濡れの女なんか愛されるわけがないじゃない! そうでしょ、ね?」

「あ、まだ『そこ』なんだ?」


愛されるとか、思いが報われるとか、努力が評価されるとか。クズノはまだそんな段階でこだわっているのか。

そんなのどうだってよくないか。大事なのは自分がどうしたいかで、やりたいようにやることじゃないか。


「愛『される』んじゃなくて愛『したい』の。わかる?」


この受動と能動の差。果たしてクズノにわかるだろうか。

ラカがどう思っていたって関係ない。感謝していようが迷惑がっていようが。


「っていうかね。血濡れの手をラカ様がどう思うかって、ラカ様の気持ちを勝手に代弁してるけどさ? ごめん、言っていい?」


クズノは大事なことを忘れている。鹿神にとって我らが一族は餌であり、ラカにとっても未嫁たちはただの餌。他の餌よりちょっと手をかけたぶん上等だというだけで。

ラカのたとえを借りて言うならこうだ。


「ね、家畜がいくら発情してても、畜産家がそれに応えると思う?」


クズノの想いは遂げられることはないし、クズノに勝ち目はない。

ついでに言うなら何も特別じゃない。たまたま他より質が良さそうで、未嫁っていうブランドリボンがついただけ。


「あんたは、なぁんにも、愛されてないよ」


ごめんね。言っちゃって。梅の香りが気持ちいいから、つい。

あはっ。笑いながら言い放った。クズノは愕然として青い顔で何かを言いかけ、しかし声にならず、ぱくぱくと口を開閉するだけ。

やっと感情と思考が口に追いついたのか、でも、と震える声で最後の反撃を繰り出してきた。


「っ……でも、でも……それは、あなただって同じじゃない!」

「そうだね」


乙女心としては相思相愛になれればよかったのだけれど。そこは悲しいけどそれはそれ。

愛されていない。けど、愛することはできる。愛したいから愛する。やりたいようにやる。


「そうしたいからそうするの」


食べられるとわかっていて、その口に飛び込む。とびきり美味しくなって。そうしたいからそうする。

美味しくなりたいと思うのも、ラカが美味しくなれと要求したからじゃない。食べられるならとびきり美味しくなってやろうと思ったからそうする。美味しくなったら愛されると思うからじゃない。見返りなんてどうでもいい。


「わかるかなぁ、この差」


自己完結で閉じちゃってるから、私は無敵。

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