枝葉を集めて活けるように
部屋にシダリはいなかったので、ニイカから聞いた意味深な話はメモに残して机の上に置いておく。捨てるなんて無粋なことを世話人がしないことを祈りつつ。
そうして部屋に戻り、自然と薬湯を口にしながら、あったことを反芻する。
気になるのは、カエデやニイカの過去が自分の過去と重なる部分が多かったことだ。
異能の力によって親を亡くしたこと。そうして孤独となった身にラカが寄り添ってくれたこと。遡ればラカは名付け親であること。
シダリだって幼少期に天涯孤独だ。異能の力の発現で両親も親類も何もかも喪い、本邸で育てられた。
思えば、クズノと友人になったのもその境遇に共通する部分があったと思ったからだ。異能を隠せと強いてくる親の存在は自分の保身しか考えていないものとして捉えていて、クズノを練習台として扱う彼女の親のことも自分のことしか考えていない者と思っていた。そうして保身に走る親を持つ者同士という共通点で親しみを抱いたのだ。単に、最低限しか世話されない彼女が可哀想だと思ったのもあるが。
そう。自分たちには共通点が多い。これは偶然なんだろうか。何かの意図を感じる。
まるで、そういった娘たちが未嫁として集められているかのようじゃないか。
「もしかしたら、サクラたちだって……」
これだけ共通点が多いと、もしかしたらサクラやハギネ、モミジもそうだったのかもしれない。
何かしらの苦難を負い、ラカを心の支えとして生きていたのかも。ニイカのように生い立ちにさほど苦難はなくても、名付け親だったのかもしれない。
「……ま、いっか!」
こんなこと、考えたってどうしようもない。ここであれこれ考えたって結論は出ないだろう。
たまたま一致していたということもある。まぁそういうこともあるかもしれない、くらいで。
思考を投げ出し、気分を変えるついでに湯呑みを煽る。梅の匂いが心地良い。
「……実かぁ……」
シダリから真実を聞いて驚いたが、今はもう衝撃は抜けて落ち着いている。
食べなければ死ぬというが、力の代償だと思えばそう怖くはない。ただで力が手に入るわけがない。
このところの発熱や体の怠さも心労などではなく、濃密に実を摂取していることの反動だそうだが、そのおかげでラカの嫁になれる資格を得られているのだ。別に醜悪な化け物に変じるわけでもなし。
「後戻りができないって言われてもな」
悪い言い方をすれば、後戻りできないように仕組まれている。だが生憎、最初からする気がない。仮に戻れたとしても自分の意志で戻らない。
振り返らないし引き返さないのだから、後戻りできなかろうが別にどうでもいい。常に前しか向かないのだから。
「私は私だし」
やりたいことを、やりたいように。昔からそうだし、今もそうだ。いつだって自分のやりたいようにしかやってない。
カエデたちに真実を伝えたのだって、そうしたいと思ったから。たとえシダリが止めていたとしても伝えただろう。ラカ本人が『他の未嫁にも広めていい』と言ったのだからと言って。
異能を隠せと言った両親に反発したのだって、隠す理由がわからなかったから。力を隠して偽って生きるなんて自分らしくないと思ったからだ。自分は自分のやりたいように、ありのままに。それを阻害する両親が邪魔だと思った。だから反発した。
エンゲージに参加したのだって、ラカの嫁になりたいから。いつから好きだったかはあまり覚えていないが、とにかく自分はラカのことが好きなので。あの眉目秀麗な青年は分身で、本体は鹿だとしても構わない。好きだ。以上。
「うん、じゃぁそれでいいよね」
自己完結し、湯呑みに残った薬湯を飲み切る。一瞬目眩のような陶酔感がした。
この不思議な感覚もラカとより深く近くなっていっている証なのだろう。そう解釈するのはロマンティックすぎるだろうか。クズノのことをポンコツと笑えない。
「ふふ……」
これは私が望んで進んでいる道なのだから怖がる必要はまったくない。梅の香りに背中を押された気がした。




