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葛の葉

「じゃぁやっぱり私はラカ様に想われてたってことよね!」


真実を話し開口一番、クズノは明るくそう言った。

ショックを受けたり動揺したりしない。受け止めきれていないからではなく、受け止めた上で動じない。

むしろ、自分の思う信念の補強をされたとばかりに喜んでいる。


「こいつラカ様が絡むとポンコツだな……」


思わず呟いてしまった。

クズノはいつもそうだ。ささやかな偶然だろうと、それを必然のものだと思い込む。ラカに絡むことであればなおさらだ。

今回のことも、一族の者を思う鹿神の心をラカからクズノ個人への思いだとすり替えて喜んでいる。自分はラカに愛されて選ばれたのだと。


無理もない。クズノの過去は知っている。幼馴染ゆえに、とてもよく。

後から大人たちに聞いた話で補強した内容だが、クズノの過去はとても過酷だ。下手をすれば死んでいた危ういことが何度もあった。それを偶然の力や本人の努力で乗り越えてきた。

それゆえに、偶然を必然と思い込んで運命の思し召しだと思うようになったのだ。自分の運命はここで死を指し示していないからどんな危険でも乗り越えられるはずだと思わなければ、どこかでとっくに心が折れていた。


そんな生い立ちを知っているのでその思想は無理もないと理解できるが、いやはやしかしそれにしたって。今回のことは結論が飛躍しすぎていないかと、ついそう思ってしまう。


「なによ!?」


くわりと牙を剥くようにクズノが柳眉を跳ね上げた。


「私はラカ様に選ばれるの。今までだって選ばれてきたんだもの。運命はそう言ってるんだから。そうでしょ?」


***


クズノには姉妹がいた。1歳年下の妹だ。

そして両親にとって、クズノは子育てのための試作品であり、『親』というものをやるための練習台であった。まず長女で試し、育児のノウハウを得てから本命の次女に全力を注ぐという方針のための。

あれは大丈夫か、これは大丈夫か、これは子供に与えていいものか、それをすると子供はどうなるのか。本命である次女に『ちょうどいい』を与えるための練習台にさせられた。子供に与えてはならないものを与えてしまったらどうすればいいのかという緊急時の対処法を『練習』するために、わざと危険な目に遭わせられた。


愛情も世話も手間も、あらゆるものが最低限だった。それらが向けられたとしても、それはその向こうの本命を見据えてのこと。

その運命が少し動いたのが3歳の時だ。


我らが一族は3歳の頃にお食い初めの儀式がある。初めて実を食す時だ。

この時、実に込められた力に耐えきれず命を落とす子もいるという。

しかしクズノはそれに耐え、生き抜いた。クズノはこのことを偶然とは思わず、必然だと受け止めている。


そこからさらに運命が動いたのが7歳の時。

ある日、異能の力が目覚めた。指をくっつけ、離すとその間に糸ができた。細く丈夫な糸を自在に生み出し、操るという異能がクズノの身に宿った。

両親はそのことを喜んだ。本命である次女が異能の力に目覚めた時も、『練習台』がお手本になってくれるだろうと。まだ異能の力に目覚めていない次女の今後に期待を寄せながら。


そうして月日を重ね、妹が15歳の時。クズノの運命は大きく動いた。

15歳を迎えても彼女は異能の力に目覚めなかった。異能の力を持つ者はだいたい、早くてお食い初めの時か、どんなに遅くても15かそこらには力が発現する。なのに彼女にそれらしい力はまったくなかった。

困ったのは両親だ。このままでは『練習台』のほうが優秀になってしまう。『屑』であるべきは、格下であるべきは長女のほうなのに、これでは逆転してしまう。自分たちは無能の次女を本命にして、有能な長女を練習台としてぞんざいに扱ってきてしまった。

自分たちが見誤ったこと、そして今までの扱いを理由に復讐されるのではないかという恐怖、それらに背中を押され、両親は縋る気持ちでラカに問うた。次女に異能の力はいつ目覚めるのかと。


「ないよ」


ラカの答えはあっさりと、そして十分な破壊力をもって一家を打ちのめした。


すべてが破綻した両親は逆上し、何もかもをなくしてしまおうと考えた。

今からでも遅くはない。全部リセットして今度こそ『本命』を生み出そう。長女も次女も練習台として切り捨て、新たな三女を妊娠して――


その目論見は、すべて糸で切り刻まれてしまったが。


***


お食い初めの時に死ななかった。異能の力が発現した。自分は常に『選ばれた』側だった。

世界は自分の存在を肯定している。生きるべきは自分だと、常に背中を押してくれている。


ミズキに告げられた内容もそれを補強するものだった。鹿神の慈愛はしっかりと自分に届き、『選ばれた』側に置いてくれている。

選ばれたということは、つまりラカは自分を愛してくれているということだ。証明終了。


そして自分もまた、ラカを愛している。すなわち両思いなのだ。両思いであるならば鹿神の嫁になれるはず。鹿神の嫁になるという運命が決まっているなら、結論が過程をすっ飛ばしてどんなことがあったってこのエンゲージにだって勝ち残る。重ねて証明終了。


「そうでしょ? ね?」

「……はぁ……まぁいいや……」


結論ありきの人間に何を言っても無駄だ。はぁ、まったく。ミズキは溜息を吐いた。

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