紅葉の枝が手折られる
朝。ミズキが目を覚ますと、部屋の外が何やら騒がしかった。
「何だろう……?」
着替えながら、この寝室棟の構造を思い出す。
寝室棟は本館から続く渡り廊下に繋がり、真っ直ぐ伸びる一本の廊下が建物を貫く。廊下を挟んで左右に4つずつ、計8つの部屋。左側は本館から遠ざかる順にシダリ、クズノ、カエデ、ハギネ。右側はその対面、サクラ、ミズキ、ニイカ、モミジ。サクラとハギネの部屋は、今や空っぽだ。
部屋の位置関係を思い出しながら、騒がしさの方角を探る。荒げた声こそないものの、頻繁に人が出入りしている時の慌ただしさと騒がしさがある。
「あっちかな? ……モミジの部屋とか?」
音のする方向を探ってみると、その騒ぎの元はどうやらモミジの部屋にありそうだ。
ということは隣のニイカに何があったか聞くのが早いかと考え、ミズキはそっと部屋を仕切る板戸を開けた。
「ねぇニイカ。何があったの?」
「あ……えっと、ミズキさん。その……」
朝の支度の途中で投げ出したかのような、中途半端な格好をしたニイカが青い顔で語るに曰く。
早朝にモミジが自室で死んでいるのが見つかったそう。見つけたのは朝起こしに来た世話人で、今はその処理をしている最中だとか。
「……それを聞いて、私、その……怖くて……」
で、そんな中途半端な格好で座り込んでいたわけだ。服こそ着替えたはいいものの、髪は整えず寝癖で跳ねたまま。おそらく、着替えながらモミジのことを聞いてショックでへたりこんで今に至るのだろう。気持ちはわかる。ミズキだって朝起きて隣でひとが死んでいると聞いたら身支度どころじゃない。
「死んだって……なんで……?」
「わからないの……世話人のひとは、病死だって言ってるけど……」
「病死ぃ?」
怪訝そうにミズキが繰り返す。
病死だなんて。そんなことありえるのだろうか。
エンゲージという重要な儀式を前にして、病気や怪我には注意するはず。エンゲージが始まり、未嫁として加わるならなおさら。
肝心な時に体調不良になんかならないよう健康には気を使うはずだ。それなのに病死だなんて。何かしらの病気を抱えたままエンゲージに参加したとか、いや、それにしたっていきなり死ぬのはおかしい。夜中に体調が急変したとでもいうのか。
「……私も、変だなって思って……」
モミジのことをあまり知らないのではっきりとは言えないが、と前置きしながらニイカも控えめに頷く。
昨晩、隣の部屋のよしみで、とモミジが板戸を開けて話しかけてきたのだ。明日は自分の番だから緊張して眠れないとか、カエデやミズキのように人を殺めてしまうのかとか、逆に殺されるかもしれないという恐怖を抱えているとか、そんな話を交わした。
お互いに恐怖と不安を共有し合って、一通り話して落ち着いて、おやすみと言って板戸を閉めて眠りについた。
「その時のモミジさんは全然……病気とか、何もなさそうだったのに……」
健康そのものだった。病気を隠しているという素振りもなかった。
それがまさか寝て起きてこうなっているなんて。
「……だから……その…………病気じゃないと、思うの……」
「ってことは……まさか……」
はっきり言葉にしないまでも示唆するニイカの言葉にミズキが目を瞠る。
病死ではないということは、つまり自殺かあるいは他殺。
自殺するなんてことはないだろう。する必要がない。
――なら、誰かに殺されたということだ。




