58 決着と演習と闇の資質
パンジャマンは走っていた。うしろにある追撃者の気配に恐怖しながら、必死で足を動かしていた。
「くそっ! コウモリ野郎のせいで!」
「だ、旦那! どうしよう! あいつら、人間のくせに!」
狐魔人の情けない声に、舌打ちしながら振り向いた。
追手はわずかに2名。魔術士らしき年配者と、まだ年端も行かない少女だった。人間の2人は、魔人に比べると身体能力が低いはずだった。だが、距離は見る見るうちに縮まっていく。2人の人間は、魔人との身体能力の差を凌駕するほど、高度な魔力で強化しているのだ。
「なぜ振り切れぬ! 矮小な人間のくせに!!」
「だ、旦那!!」
虎魔人の警告と同時だった。パンジャマンのわずか前方に唐突に土壁が生えてきた。一瞬だけぎょっとしたパンジャマンは、
「うおおおおおおおおおお!!」
その拳で、土壁を打ち砕いた。
「すげえ!! さすが旦那! これが牛魔人のパワー!!」
「ふん! これくらいは何ともないわ! 何度やっても無駄なこと、いつまでもわからんらしい」
鼻息荒く走り続ける魔人たちだったが、
「いやいやいや。十分効果があったぜ? おかげで追いつけたんだからよ」
「なっ!!!!」
一瞬だった。すぐ後ろに、人間の黒ずくめが走っていた。慌てて繰り出した拳はあっさりと躱され、
「往生際が悪いっす!」
横合いに現れた少女に、2人は蹴り飛ばされてしまった。
「牛魔人は見かけだけはすげえやな。なんたって、土と水に適性があるんだからよ。虎魔人も水に特性がある。キツネのは火だが、土にも適性があるんだっけか? 身体強化だけは、まあ派手なもんさ」
「くっ! 人間無勢が! 魔人の恐ろしさを分かっているとでもいうのか!」
パンジャマンが言い返すが、
「いんや? 確信しただけだぜ? 魔人はやっぱり愚かだってな」
「な、なんだと!?」
男に言われ、あんぐりと口を開けてしまう。
「き、貴様! 我らを追っておいて、何をほざく! 主力の貴様らが追ってきたのが証拠ではないか!」
「主力? 俺たちが? いやいやいや。お前さん、どこまで見る目がないんだよ。お前らが言う撲滅聖女とその主人がだぜ? こっちに来てねえのに、俺たちを主力って言うのか?」
「ま、あっしらはそこそこやるつもりですけど、主力って言われてもわけわかんないっすよね。強さにおいて上はいくらでもいるのに」
あきれたように言う2人を、パンジャマンは思わず見返してしまった。
「お前らちは拘束させてもらうぜ。お前さえ何とか出来ればロザリー嬢ちゃんのほうもおさまりそうだしな。ま、こんなところから魔物を操れる能力だけは認めてやってもいい」
「くそ!! くそくそくそ! お前ら! 俺様達の恐ろしさを見せてやるぜ!!」
負け惜しみのように言うパンジャマンに、人間の魔術師たるオースティンたちはじわりじわりと近づいていった。
◆◆◆◆
「はあっ!」
「んふう!」
またもや、2人の連携だった。ロザリーとシモンの息の合った攻撃によって、また1体のサベージュトロオゥが自紙引きを鳴らして倒れ込んでいく。
「いよおおおおおおおおし! これで魔物は全滅だあああああ! トランクィボファンは僕らのもんだあああ!」
「何とかなったな。あれだけの数のサベージュトロオゥを見たときはどうしようかと思たが」
叫ぶブレーズとほっと一息ついたジョス教師だった。
ロザリーたち一行は、危機を脱していた。パーティーメンバーの連携によって攻め来るサベージュトロオゥの群れを撃退していった。
「すばらしい! 素晴らしいですわ! これが学園生の実力なのですね!」
「・・・。あんたの魔術も大したもんだったぜ?あのタフなサベージュトロオゥを、風魔法であっさりと仕留めやがった。身体強化も見事なもんだ。うちの面々が無傷で済んだのは、あんたが頑張ってこそだと思うぜ。まあ、俺たちとしては情けないばかりだが」
喜びをあらわにするエリーゼに、悔やむように答えたジローだった。
2人も、押し寄せる敵と戦っていた。押し寄せるサベージュトロオゥたちを、魔法で撃退していったのだ。とはいえ、成果は段違いだった。撃退すれども愛止めがせいぜいで大ダメージを与えられなかったジローに対し、エリーゼは強力な魔術で次々と魔物を屠っていた。
だが、今回の成果は何と言っても前衛組にあった。特にロザリーとシモンは盾役のブレーズをうまく使い、縦横無尽に動いてサベージュトロオゥを倒した。
「んふう! 私たちの愛の連携があればこの程度の魔物などお剃るるに足りません。ねえ、ロザリー様・・・?」
「・・・」
いつもは即座に否定するロザリーが、何かを考えこんでいた。
「今の戦い、おかしくありませんでした? 襲い掛かってくるサベージュトロオゥは3体ずつ。他の魔物は様子見に徹していました。あれら全てが襲い掛かっていればもっと苦戦していた。それに、魔物の種類もです。サベージュトロオゥは、こちらから手を出さない限りは攻撃される可能性はない。なのに今回は、最初から臨戦態勢だった」
「んふう。こういったケースはないこともないですが、妙でしたね。今回は自然な魔物に襲われたというよりも」
シモンは目つきを鋭くした。
「何かに、けしかけられたようだった」
「デボラ! 周りに敵はいなかった?」
デボラは静かに首を振った。
「私のフィーデンでは何の反応もなかった」
「そう・・・。デボラが見落としたとは考えづらいし、偶然なのか・・・・」
ロザリーは思案に沈む。
「くっ! 冒険者ギルドの護衛は何をやっているんだ! 高い金を払ったのに合流地点にも現れんとは! 学園長に言って抗議してやる! 魔物の間引きは十分だ! 戻るぞ」
「ねえロザリー様? 私、大活躍だったんですけど? 息もぴったりでお揃いだったじゃないですか? ねえったら、ねえ!」
わめくシモンをさておいて、ロザリーたちは帰路に就くのだった。




