55 エリーゼの実力
ロザリーたち一行は平原の奥へと向かっていた。
「学園の近くにはいくつか素材が取れる場所がありましてな。テール平原のほかにもレーベスの森という場所もあります。あそこで取れるクルール草はポーションの原料として最適で・・・」
歩きながら、ジョスの講釈が続いていた。
「すばらしいですわ。学園で素材の最終方法まで学べるとは。貴族が通う学園というと戦闘とは無縁なイメージがありましたが、そうではないのですね」
「ええ。戦闘とは無縁な生徒が多いのは確かです。他の貴族との縁を求めて学園に来る生徒が大多数を占めている。ですが、選択次第では戦闘や魔法についても学べます。聖女様のお役に立つことだっていろいろ学べますよ」
ジョスは得意気だった。
「精霊教の聖女としては、個人の戦闘力はなくてはならないものです。学園でそれを学べるのは何物にも代えがたい幸運ですわ」
「んふう! さすが聖女様。好奇心旺盛でいらっしゃる。わずかな時間しかご一緒できないのが残念ですねえ。聖女様と同学年には愚弟もおりますので、分からないことは彼を頼っていただければ。最近は、少しは見るところも出てきましたし。ねえ、ロザリー様?」
「はい?」
目を瞬かせたロザリーに、シモンはねっとりとした視線を送った。
「愚弟は、あなた様の妹君と接するようになって素直になってきました。この場を借りてお礼を。あれは、水や土の資質が低いこともあって少し拗ねていたのですよ。身体強化向けの魔力の資質がなくて伸び悩んでいた。それをあなたの妹が変えてくれたそうではないですか」
「水と土の資質が今一つ・・・。それは、近接戦闘者にとって辛いことだね」
パーティーの盾役ブレーズが哀れむようにつぶやいた。
「ええ。近接者として生きていくのは難しいと思われていました。ですが、ロザリー様の妹君のおかげでよい師に巡り合えたとか」
シモンは楽し気に唇を歪ませると、大げさに腕を広げた。
「今思い出しても、あれは素晴らしいものでした。まさか風を使った身体強化をこの目で見ることができようとは」
「風を使って身体強化を使ったのか? それはなんというか・・・。弟君は、よほど良い師に巡り合えたんだな」
うんうん頷くジローだった。
「風の魔力はほっといても動いちまうからなぁ。身体強化には向かねえだろ。戦闘中にずっと使い続けるとなると、青か黄色か・・・」
「もしくは、白ですね」
エリーゼの言葉に、ロザリーはピクリと反応した。
「白の、属性ですか・・・」
「ええ。うふふふふ。身体強化は白の属性でも扱えるんです。白の強化は、4大属性を凌駕する。土よりも水よりも、ね。上下2属性は扱えるものは少ないですが、それだけにその恩恵は大きいのですよ」
エリーゼは胸を張っていた。
「白・・・なあ。聞いたことがあるぜ。確か、魔法王国じゃあずいぶんと重宝されているらしいじゃねえか。王位を継ぐ条件が、あの属性を持っていることなんだろう? すげえ回復を使えるそうだが、身体強化にも優れてんのかよ」
「んふう! こっちでは白の使い手はほとんどお目にかかれませんからねぇ。ましてピレイル連邦では忌むべき属性とされていますし、あんまりいい印象を持っていないのかも。資質があっても目覚めることなく終わってしまうケースもあるそうですし」
疑問符を浮かべるジローとシモンに、エリーゼは笑顔を返した。
「うふふふ。今日のお礼としましょうか。お見せしてあげますわ。白の身体強化のすばらしさを、ね」
「!!! 来た!! 5時の方向!!」
エリーゼの言葉を遮って、デボラが前方を指さした。3年生は素早く反応する。慄くジョス教師を気にも止めず、全員が武器を構えた。そしてさりげない動作で、前方に向かって迎撃態勢を整えていく。
「うひょう! やっぱりだ! サベージュトロオゥを見た時から、絶対にいると思ったたんだ! ねえシモン! あれだ! あの肉は、絶対に手に入れないと!」
「んふう! 落ち着きなさいブレーズ。聖女様の前ですよ」
シモンがなだめるが、ブレーズの興奮は止まらない。
「落ち着いていられるわけないじゃないか! ほら! トランクィボファンだ! ああ! 王都に来て、またあれの肉が食えるとは思わなかったなぁ!」
ブレイズが指さす先には、角のない牛が生徒たちを睨んでいた。
「気を付けてよね!! 下手に傷つけると肉の味が落ちちゃうんだ! 魔核をつぶしちゃうのは絶対にダメ! 急所だけを当てることができれば、最高級の肉を味わえる!」
「ふふふ。ブレーズ様はあれの肉に興味がおありですね。いいですわ。私の手で、魔物の急所だけを、貫変えていただきますわ」
言った瞬間だった。エリーゼが姿勢を低くして魔物に突撃していく。ジョス教師が止める間もなかった。それほどさりげなく、そして素早い動きだった。
「!! 速い!」
「うふふふふ!」
エリーゼが、先頭のトランクィボファンにメイスを叩きつけた。脳天をつぶされた魔物を見ることもなく、次のトランクィボファンの頬を殴りつける。そして、背後から襲いよるサベージュトロオゥを躱すと、魔物を率いるリーダーへと向きなおった。
「ぐごおおおおおおおおお!!」
「あはっ!」
吠えるサベージュトロオゥに、狂笑を浮かべたエリーゼ。突進してくる魔物をあっさりと躱すと、その顎めがけて渾身の一撃を振り上げた。
「聖女様! あぶない!」
デボラから警告が飛んだ。突出して魔物をつぶしたエリーゼめがけ、もう1体のトランクィボファンが突撃してきたのだ。
だが、エリーゼに慌てる様子は微塵もない。
襲い来る猛牛に手をかざすと――。
「エアライン」
緑の魔法を放った。
風の弾は、狙いたがわず猛牛の眉間へと吸い込まれていく。弓で打ち抜かれたように崩れ落ちる猛牛を見ることもなく、エリーゼは次の魔物に狙いをつけていく。
狙いは、逃げようと後退した3体のトランクィボファン。
「がは! がはっ!」
「うふふふ! 逃がさない。リターナー」
今度は黒い魔力だった。地面から伸びた影が、3体のトランクィボファンに絡みついた。魔物たちはもがき、逃げようとするが、黒の魔力は牛の魔物が動くことを許さなかった。
「し、白に、緑、そして今度は、黄色と黒の複合!?」
「さて今のうちに。動きを辞めた魔物たちを、倒してしまいましょう」
エリーゼの言葉に、ロザリーたちは掃討戦に映るのだった。
◆◆◆◆
「いやあ! さすが聖女様! 見事な腕前です!」
「いえいえまだまだです。魔物を倒せたのは皆様の援護があればこそですわ」
ジョス教師が褒め称えてもエリーゼは済ましたままだった。
「なにをしらじらしいことを。俺たちがいなくてもこの程度の魔物なぞあしらえたんじゃねえか」
「いえいえ。皆さまがいてからこそですよ。皆さまが後ろに控えていたから私は思いっきり戦うことができた。一人ですべてを決めようとしては思わぬ事故もありますからね」
涼しい顔をするエリーゼに、ジローは不機嫌そうにうなった。
追従するジョス教師に対し、ジローたちは複雑だった。自分たちだけでは苦戦するはずの魔物の群れを、エリーゼは一人で倒してしまった。その事実に打ちのめされるパーティーメンバーも少なくはなかった。
「んふ! 細かい指導は後日として、今は演習中ですから」
「そうだね。魔物はかなり間引いたと思うんだけど・・・」
シモンが言うと、ブレーズが焦ったように周りを見渡した。平原の中心部辺りに到達した一行だった。さすがに魔物は見当たらない。かなりの数を、倒すことができたようだ。
「うん! 周りに魔物は見当たらない」
「私のフィーデンにも反応なかったし、あらかた固唾いたんじゃない」
デボラは興味なさそうに、それでも太鼓判を押した。
「んふう! この演習の目的は果たしたと言えるのではないでしょうか」
「あ、ああ。そうだな。では、戻るぞ! 無事に学園に戻るまでが演習だ! 気を抜くなよ!」
威厳を取り繕うかのような、ジョス教師だった。
一行は、来た道を引き返していく。緊張感が抜けたのは一瞬だけ。エリーゼとジョズを除く全員が、わずかな油断も見られなかった。特にロザリーは死きりに周りを見渡している。
「? ロザリー様?」
「あ、いえ。シモン様。私たちも戻りましょうか」
注意を振り切るかのように、ロザリーは来た道を戻っていった。




