54 テール平原
ほとんど同じタイミングだった。
「そこ!!」「んふう!!」
流れるような突撃が、魔物の首を起点として交差する。4歩級の巨大な牛の魔物――サベージュトロオゥは地響きを鳴らしながら倒れていく。
「すばらしい! 見事ではないですか! これが、学園で鍛えた腕ということですね!」
興奮したような聖女エリーゼに褒められ、シモンはまんざらでもなさそうだ。対してもう一方のロザリーは無表情で頭を下げただけだった。
テール平原へと向かった一行は、入るなり魔物の群れに襲われた。凶暴なサベージュトロオゥを中心とした10匹あまりの一団。想定外の襲撃に、しかし学園の3年生は冷静に対処した。周りの魔物たちを魔法で効率的に足止めし、群れを率いるサベージュトロオゥを、ロザリーとシモンが連携して倒してしまった。
「んふう!! まれにあるのですよ。これくらいの魔物に襲われることはね。それよりも、さすがはロザリー様ですね。想定以上の魔物にも、まったく焦ることなく対処された。やはり、あなたは!」
「ありがとうございます。お怪我はありませんか? 後ろには反らさなかったと思いますが」
シモンの言葉を遮って、ロザリーは聖女に尋ねた。
「問題ありませんわ。私のことはブレーズ様が守ってくださいましたから。デボラ様とジロー様の指示も的確でしたし」
「シモンやロザリーたちだけにいい格好をさせるわけにはいかないからな」
軽い調子で答えたジロー。顔を赤くする盾役のブレーズと、プイとそっぽを向いたデボラだった。
「サベージュトロオゥかぁ。他の魔物の影響で好戦的になったのかな? これ、あんまりおいしくないんだよね。核を砕いたらまずい肉がさらにひどくなるし。でも、こいつがいるってことは、もしかしたら!」
「このように、学園では魔物との戦いを学ぶこともできます。首都や領地で部下を率いる生徒も多いものですからな。ここに入る6人の3年生は、塔学園きっての精鋭で・・・」
盾役のブレーズを無視して説明した引率のジョス教師だが、その言葉はさらに途切れさせられてしまう。
「フィーデン」
女生徒のその言葉を引き金に、あたりに緑の魔力が広がっていく。周りにいるメンバーどころか、森を満たすようなそれに、説明を遮られたジョスは不快気に眉を顰めた。
「デボラ君。まだ説明の途中だぞ」
「それは失礼。忘れないよう早く対処したほうがいいかと思いまして。私たちは安全な場所にいるわけではないのですから」
厳しく詰問するジョスに、デボラはしれっとした態度だった。
「魔物を殲滅しても油断はできません。群れの襲撃を防いだタイミングで、新たな敵に襲われるケースは少なくないですから」
「うふふふふ。油断大敵ということですね。確かにほっとして気を抜きそうになっていましたわ。学園ではそう言うことも学べるわけですね」
たしなめられた形のジョスは機嫌をさらに悪くしたようだ。
「わ、私は聖女殿に学園のことを説明しようと!」
「あたりに生物の痕跡はありません。ですが、1000歩ほど先に魔物の反応があるようです」
「んふっ! さすがはデボラですね! ジョス先生。でも今は先を急ぎましょう。この調子で先に魔物を倒すのです。学園についての説明は、安全な場所でもできますからね」
無感動に言うデボラとどこか楽しそうなシモンに言われ、ジョスは忌々し気に唇を震わせた。
「くっ! 行くぞ! この森は安全な場所ではない! 敵が集まらないうちに先に進むんだ!」
森の奥に進んでいくジョス教師に、ロザリーとデボラは肩をすくめたのだった。
◆◆◆◆
「ロルジュ家の長女、なかなかやる。あのシモン様に合わせられる人材がいるとは」
「お嬢様はほんと見事っすね。比較的小さいとはいえ、サベージュトロオゥは簡単に倒せる魔物じゃないのに」
ジャドゥとサーラが声を潜めながらも感心していた。ジョアンヴィル家の護衛2人も仕切りに頷いている。
ソニアたちは森を探索する学園生をひそかに護衛していた。情報があったのだ。平原の探索に向かう聖女たちを、魔人たちが狙う可能性があると。そこでソニアたちが彼らを嗅げながら護衛することになったのだが。
「ソニア?」
「今のフィーデン、なんか変じゃなかったです? 師匠やオデットがいつも使うのと違っていたような・・・。私たちのほうには目もくれなかったのも気になります。いくら隠形がうまい人しかいないからって、見つけられないのはやばくないです? 私たちのほかにも潜んでいる人たちはいるのに、それもスルーしちゃった。本当に、うまく索敵できたのかなぁ」
相変わらずネガティブな発言にサーラはあきれてしまうが、オースティンはソニアの頭にやさしく右手を置いた。左手に魔力の痕跡のようなものを掴んでいるようだ。
「俺や小さいお嬢ちゃんが使うフィーデンは、いわば強化版ってやつよ。魔物どころか魔力の圧やつすべてに反応し、隠れていてもすべて見つけてくれる。でも、あの学園生が使ったのはあくまで魔物用の簡易版だな。消費は少なくて済む代わりに、敵を見逃しちまう可能性がある。例えば、こいつとかを使った場合はよ」
言いながら、オースティンがポケットから緑のメダルを取り出した。
「お宝っすか?」
「ちげえよ。魔道具だ。こいつがあればフィーデンの効果をごまかすことができる。効果はそこまででもないが、こいつ一つでここにいる6人くらいは隠し通すことができるって寸法よ」
感心したようにメダルを見たソニアは、次の瞬間には青くなる。
「て、てことは、お姉ちゃんたちは魔人を見逃しちゃう可能性があるってことじゃないですか!」
「魔法を使った彼女を妄信しているようならね。これはちょっと、注意しないといけないかも。この状態じゃあ、注意を促すこともできないし」
そう言ってジャドゥは学生たちの様子を伺った。彼らはあのフィーデンで安全を確保したつもりになったらしく、森の奥へと歩み始めていた。
「ここに来たのは正解かもしれないわね。私たちも行くわよ。あなたのお姉さんたちがしっかり任務をこなせるか、しっかり見守らないと」
「うう・・・。なにも起こらないといいけど自信ない。こういう時、絶対にトラブルがあるんだよなぁ」
ソニアは胃を押さえながらジャドゥに続いたのだった。




