ノア、可愛らしい部屋で思い悩む
クリーム色の壁紙と黄緑色のカーテン、フカフカな毛布がかけられたベッドと小さめな暖炉、繊細に編み込まれたレースのテーブルクロスと花柄のティーカップ、小さめなシエルとウィルと私の肖像画。
領地に帰ってきた後、シエルが作った私の小さな離れ。シエルやウィルが寝起きしている本館から、そこまで離れていないけれど別々の建物だ。可愛らしい部屋だけど孤独だ。
毎日、欠かさずにシエルはやってくる。そのたびに私は言っている。「もう体調は良くなった」「そろそろ社交界に出てもいいかも」「だからここから出たい」って。
「大丈夫だよ、ノア。そんな事を考えなくても」
私の訴えはシエルには聞こえない。愛しているって言われても、これじゃあ鳥かごにいるようだ。本館が一体どうなっているのか分からないし、私はみんなからどう思われているのか知りたい。
それにシャルルへの罵倒を聞いてもシエルは怒りもしないし、私がお父様の事件で嘘の証言をしたって分かっても離縁しない。
ただ、私にこの離れにいて欲しいって言っているだけだ。
正直、そう言うシエルが恐ろしい。出来れば離れたいって思ってしまう。
そう考えるとダニエルを思い出す。か弱く振る舞って、お兄様って言って敬愛の姿を見せれば、すぐに私の言葉を信じ込む人。大切な家族だけど恋愛の対象にはならない人。
だけどシャルルへの罵倒を一緒に聞いた後、私に不信感があるようだ。
今日の午前中、ダニエルがこの離れにやってきた。
「シエル様に、ここにずっといてほしいって言うの。本館の出入りも限られているの」
「うん」
「それが辛くて、なんて思われているのか不安で怖くて」
「うん」
「私、シエルが怖いの。お兄様と一緒に居たい」
本音をほとんどさらけ出して、ハラハラと泣いてもダニエルは寂し気な目をしていた。そして「ノア」と呼びかけた。
「シエル様はノアの事を大事にしているよ。不安にならないで」
ダニエルはそう言って、帰って行った。もう私の事を幻滅したのだろう。
それにしてもシャルルは何しているんだろう? 私の悪事を吹聴して、みんなに聞かせているのだろうか?
いつもそう考えて恐ろしくなる。もう私は嘘つきって言われて、社交界には出られないじゃない。でも一刻も早く弁明したい気持ちになる。
そう訴えても、事件の真相を伝えてもシエルは「大丈夫だよ」というだけだ。
ねえ、シエル。私の事を愛してくれているけど、信じていないよね。
可愛らしい部屋なのに監獄だよ。




