シエル、ノアに愛をささやく
「お兄さんと話して楽しかった?」
「ええ、楽しかったわ」
「明日、ウィルを連れて来るね」
ノアは顔を少しだけ曇らせて言う。
「あの私、この屋敷にいつ出れるのでしょうか?」
僕が黙っているとノアは泣きそうな顔で喋る。
「私の故郷から帰ってから、ここの離れの屋敷でずっと出れないままです。本来ならシエル様のお仕事のお手伝いをするはずなのに出れないなんて、私は辛いです。それにウィルにも毎日会えないし」
僕は「ノア」と呼びかける。
「僕の仕事を手伝う事なんてしなくていいんだよ。ウィルのお世話も教育も、信頼できる人間に任せてある。それに君がここに居れば、僕は十分だから」
「シエル」
「もしかして、出れなくて寂しいからそう言っているの?」
「……そうです」
「約束する。寂しくならないように、君の所に行って愛を囁くよ」
そう言ってシエルはノアを抱きしめて「愛している」と言った。
「我が孫ながら恐ろしいな」
僕の祖父は冗談交じりにそう言ってノアのいる屋敷を見下ろした。父親も「確かにな」と呟く。それに対して僕はちょっとした反発を覚える。
ノアがいる屋敷は僕らが住む本館の隣にある小さな屋敷だ。元々は庭師が住んでいた屋敷を改装してノアが好きそうな内装にしている。広々しているし、一人で住むには十分だろう。
「自分の妻を軟禁するなんて」
「軟禁なんてとんでもない。僕はノアを守っているんですよ」
僕は自信を持って祖父と父親の前で語る。
「ノアは虚言を吐いて他の人に自分をよく見せて、脅威になる者に対して排除しようとする傾向があります。だったら脅威になる者や情報を遮断すれば、虚言も排除もしません。ここは喧しい噂好きな親族が多いですし、シャルル嬢も今後は表舞台に出て来るでしょう。そうしたら彼女は守ろうとして虚言を言いまくるでしょう。だったら守ってあげた方がいい」
「守ってあげた方がいい、とは良い言い訳だな」
嫌みったらしい父親は軽く笑って言う
「だが離縁しない決断は良かったかもしれない。離縁したら、あの子はいろんな場所で我が家について他の貴族に語るだろう。本当も嘘も交えてね」
「それはそうだな。そう思えば囲った方がいいかもしれない」
「だから囲っていませんって、愛ゆえに守っているんです」
「ふん。青臭いな、我が息子よ」
メイドが「お茶をお持ちしました」と言ってきたので、僕たちはカップを受け取る。茶葉はヨフギの草、ノアの故郷で作った物だ。試作品ではあるけれど、渋みは大分収まって飲みやすくなっている。
このお茶には祖父も父親も「ほう」と感心した表情を浮かべた。
「美味しいな、これ」
「健康食品として年老いた貴族に紹介してみようかな」
腹黒い父親と祖父の会話を聞きながら、僕は更にお茶をすする。




