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ノア、怒りが爆発する


 部屋で休んでいるとシエルがノックして「ノア、入っていい?」と言う声が聞こえてきた。私は「大丈夫」と言うと、ドアが開いて心配そうなシエルが入ってきた。


「大丈夫かい?」

「うん、大丈夫」


 私は怯えた感じで「お姉さまたちは?」と聞いた。


「付き人のアンリ君とサンソン神父は調べ物があるって事で警察の方と一緒に出掛けたよ。でもシャルルさんは疲れたから部屋で休んでいるみたい」

「そう」


 私はおずおずと「お姉様の事をどう思いますか?」と聞くと「ん? ちょっと頑固そうだね」とちょっとおどけたように答えた。この答えに私はちょっと笑ってしまった。初日でシャルルを見抜くなんて。


「だけど、みんなシャルル嬢の証言を信じているようだね。サンソン神父と警察の方は」

「……シエル様も信じていますか?」


 シエルは何も答えなかった。それからずっと黙っていたけど、「僕はちょっと調べ物をするから」と言って席を立った。


「ゆっくり休んでね」


 シエルはそう言って部屋を出た。




『ノア、良く聞いて。お父様をシャルルが階段から突き落としたと証言しなさい』


 倒れているお父様を助けないで、お母様は言う。


『そうすればシャルルは居なくなるし、あなたは幸せになる』


 だからシャルルが部屋を出て、お父様を見つけるのを見計らって私は悲鳴を上げて「お父様を突き落とした」と叫んだ。

 そうしたら、シャルルは警察に捕まって我が家から居なくなった。お母様もお兄様も清々した顔をしている。

 そしてシエルに会って、結婚して、幸せだったけどお母様が亡くなって、だけどウィルが生まれて……。シャルルのことなんて考えたことは無かった。

 なのに今さら、どうして私の前に現れるのだろう。彼女が現れたから、私の幸せがどんどん崩れていく。


 私は部屋を出てシャルルの部屋の前に行く。ノックをして「ねえ、シャルル。起きている?」と聞いた。返事はない。

 それでも私はシャルルの部屋の前で思いのたけをぶちまけた。


「何でさ、刑務所で大人しく待っていないの? どうして私の普通の幸せを壊そうとするの?あなたはここの家族でも何でもないのに、どうして出しゃばるの? みんな、あなたの事を疎ましく思っていて、みんなお父様を殺したのはあなたって決めつけていたじゃん。今更覆して、どうするつもりなの? 私を破滅させるの? ねえ、聞いている? シャルル!」


 ドンっとドアを叩く。するとドアが開いて、私は「シャルル!」と怒鳴った。

 だけど出てきたのは、シャルルじゃ無かった。


 シエルだった。


「ノア、こんなに大きな声を出しちゃ、いけないよ」

「……え? なんでシエルがここに?」

「シャルル嬢はやっぱりサンソン神父たちと一緒に行くって。その際に僕は刑務所に行く前の写本を見せてほしいと頼んだら、部屋に入っていいって言われたんだ」

「違う、私は、私……」


 穏やかに笑うシエル。私の汚い所を聞いていたのに、彼は何も追及しないでほほ笑む。それがとても恐ろしい。

 そしてシエルは「大丈夫だよ」と私の耳元でささやく。


 そして「ノア」という声が後ろから聞こえてきた。パッと振り向くとお兄様が立っていた。何だろう、絶望的な表情を浮かべている。

 私はお兄様の前でこんな見苦しい姿を見せたことは無かった。いつだって、シャルルと二人っきりの時を狙って慎重にやっていたのに。

 お兄様は私を抱きしめていた時の慈愛に満ちた、家族以上の愛のある眼差しをしていなかった。だけど失望したと言わんばかりに見ている。

 すべて会話を聞かれていたと思った瞬間、シエルは「ノア」と呼んでギュッと後ろから抱きしめた。


「僕は君を愛しているのだから」


 とっても優しいシエルの声。だけど何を考えているのか分からない。





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